種苗法改正に関して印鑰智哉氏に一言

鈴木宣弘東京大学教授が種苗法改正に関して印鑰智哉氏のをよく引用するので、印鑰氏のブログを見てみました。

そして「種苗法改正に関する農水省のQ&Aに一言」にヒドイ内容が書かれていたので彼の一言にツッコミをします。

Q3 自家増殖は一律禁止になりますか?
【わたしたちの考え】
 今回の種苗法改正は自家増殖を一律許諾制にしますが、このように自家増殖を一律規制する国は現在、世界にも他にありません。EUも主食の穀類やイモ類は例外としていますし、米国でも特許が取られていない作物には自家増殖の制限がありません。一方、今回の種苗法改正では例外を設けず、すべての登録品種の自家増殖を許諾制に変えようとしています。
 現在利用されている品種がほとんど一般品種であるという農水省の説明は現状と異なります。たとえば都道府県毎に設定されている稲の産地品種銘柄でみますと、選ばれている品種では登録品種の方が品種数の上では一般品種よりも多く、稲以外の農産物でもその地方で力を入れているものは概して登録品種の割合が高くなる傾向があり、法改正の対象となる品種数は5294にのぼります。ほとんどが一般品種であり、改正の対象の一部となる登録品種はわずかだというのは地域の現状とはかけ離れた虚偽説明と言わざるを得ません。




種苗法改正で稲の自家増殖に影響が出るのか?

「都道府県毎に設定されている稲の産地品種銘柄でみますと、選ばれている品種では登録品種の方が品種数の上では一般品種よりも多く」と印鑰氏は主張しているので見てみましょう。
以下は印鑰氏の図です。
「登録品種はほんの一部」?
最初見た時になんだこのグラフは?と思いました。
左は、登録品種と登録品種落ち(期限切れ)のグラフで、右は産地品種銘柄の内で登録品種とそうでないもののグラフです。
産地品種銘柄については、「農産物検査を行う産地品種銘柄の取扱いについて」に詳細がありますが、良く流通する品種のなかで、品質検査をしている銘柄のことです。

非常に中途半端なグラフです。
一般品種 = 登録期限の切れた登録品種(一般品種) + 登録品種になったことが無い品種(一般品種)
であり、
産地品種銘柄 = 登録品種の一部 + 一般品種の一部
なのです。
左右で指し示すものが違うのに、同じ色で表現しているのは。。。

それは良いとして、全く実態をあらわしていない図です(「農水省の説明は現状と異なります」と言っているのにね)。

では正しく現状を説明しましょう。
以下は種苗法改正に関する農林水産省の資料の引用です。
コメの登録品種の普及が進んでいる
これを見てもらえばわかるように、8割以上は一般品種(自家増殖自由)となっていて、印鑰氏の説明は誤りであることがわかります。

ただし、この図は不正確なのです。米穀機構ウェブサイトからの引用と書いてありますが、米穀機構ウェブサイトでは、品種を束ねて表現しています。
例えば、コシヒカリには細かい差があり、その中に登録品種も含まれるのです。
「コシヒカリ」は一般品種で、「コシヒカリつくばSD1号」は登録品種ですが、コシヒカリとしてまとめられています。

細かい品種ごとの作付面積統計は無いので、代替で先ほど出てきた産地品種銘柄の検査量で見ていきます。
米穀の農産物検査結果」で品種ごとの検査量がわかり、登録品種であるかは、「品種登録迅速化総合電子化システム」を見ればわかります。

集計すると次のようになります。
①一般品種69.6%
②登録品種で自家増殖制限あり15.9%
③登録品種で自家増殖制限有無不明14.6%
※丸めの問題で合計して100%にはならない
 11/14追記 コシヒカリには登録品種であるコシヒカリBLが含まれる。
 ②登録品種・①一般品種混在だが、コシヒカリBLは自家増殖NG。比率不明のため、仮で①一般品種の方に含めている。
 種苗法改正影響する可能性があるのは③のみ。

これを見てもらえばわかるように、種苗法改正で自家増殖が新たに制限される可能性があるのは、③の14.6%。
半分以上(52%)が影響を受けると読み取れる表現をしている印鑰氏の主張は誤りであると言える。

シェア1%以上のものを個別に表にしてみました。
稲のシェアと自家増殖の制限(シェア1%以上)

稲以外も実影響はあるのか?

「稲以外の農産物でもその地方で力を入れているものは概して登録品種の割合が高くなる傾向があり」と言っています。
下記は彼の資料からの引用です。
重点作物での登録品種数の割合
比率の最も高い沖縄サトウキビを例に実態を見てみましょう。

令和2年第4回沖縄県議会議事録で種苗法改正に関する沖縄県の対応について質問があり、農林水産部長が次のように答えています。
県の育成品種については生産振興、普及を目的として開発を行っており、自家増殖に係る許諾料徴収について検討しておりません。
都道府県としては、次の二パターンの回答しかないでしょう。
1.自家増殖を制限しない(許可された栽培許可地域において)
 ⇒沖縄サトウキビ がその例
2.生産物の品質を担保するため(ブランド化戦略のため)に自家増殖をみとめない
 ⇒ななつぼし・まっしぐら がその例

常識的に考えて、都道府県は折角開発した品種だから広く使ってもらいたいから、無意味に自家増殖制限したり、許諾料徴収したりはしないでしょう。
民間企業の場合はコストを回収しないといけないので、話は別だが。

アメリカでの種苗管理

自家増殖を一律規制する国は現在、世界にも他にありません。EUも主食の穀類やイモ類は例外としていますし、米国でも特許が取られていない作物には自家増殖の制限がありません。
と言っているので、少し解説します。

農林水産分野における弁理士の役割等に関する調査研究報告書にアメリカのことが詳しく書かれています。
アメリカでは自家増殖が制限されない植物品種保護法(Plant Variety Protection Act (PVPA))と制限される植物特許法(Plant Patent Act)/特許法(Utility patent)があります。
前者は米国農務省植物品種保護局(USDA/PVPO)、後者は米国特許商標庁(USPTO)の管轄となります。

米国における品種登録の動向ということで、先の報告書から以下引用します。
米国における品種登録の動向(USDA)
米国における品種登録の動向(USPTO)
自家増殖が制限されない(USDA)が減って、制限される(USPTO)が増える傾向がありますね。

法律だけみて、どうこう言っても仕方がないことが良くわかると思います。
自家増殖の制限したければ(主に企業?)USPTOで登録し、国・州など利用を促進するしたいところはUSDAで登録するのでは?

EUの麦の例外と日本の稲を考えてみましょう。
日本では7割近く自由に栽培できるのだから、わざわざ例外を設けるまでもないとは考えられないのでしょうかね。

「自家増殖を一律規制する国は現在、世界にも他にありません。」と言っているが本当に調べてそう言っているか甚だ疑わしい。
今回の件を見てもらえばわかるように、自分の都合の良いデータしか使っていないようですし。
EU/アメリカ/韓国は例外あるのは知っていますが、他のUPOV加盟国全てを調べたのでしょうか。日本語で調べる限り見つけられませんでしたが。
また、「一律規制」というのは正しい表現ではない。「一律許諾性」でしょうに。

まとめ

稲の場合は現状で最大2割未満しか影響を受けず、稲以外も沖縄サトウキビしか調べていないが、常識的に考えて都道府県が開発した品種に影響があるとは考えられない。

よって、印鑰氏の「地域の現状とはかけ離れた虚偽説明と言わざるを得ません。」という主張は「虚偽説明と言わざるを得ません。

追記:これを書く際に見つけた、まっとうな記事を紹介するのを忘れていました。
種苗法改正、ネットで拡散する反対論への反論:種子会社が法外な種子代を要求して農業を支配しているわけではない
 本質的なことは、ある人や会社が、多額の資金や多くの研究者を投入して開発した品種を、他人がただで使用してよいのかということである。それが自家増殖する品種の1割なのか、6割なのかは、本質的な問題ではない。

 使用者である農家が使用するに際し開発者に何の対価も払わないのであれば、開発者は品種改良を行おうとしないだろう。それは日本農業の発展を損ない、農業にとって、大きな不幸である。
その通りですね。

この記事へのコメント

2022年02月05日 21:59
種子法廃止+種苗法改正+農業競争力強化法のこの三つと食物メジャーがどのように各国の農業を乗っ取ってきたかが分からないと、種苗法改正のことだけで重箱の隅を突くようなことを言っても意味がないと思います。水道も民営化しました。今後は国民皆保険だって危ない。タネや水や医療は生きていく最低限のもので、国が守らなくてどうするのでしょうか?枝葉ばかり見ていては真実が見えてこない、もっと森の全体像を把握することが大事ではないでしょうか?また、現在登録品種がそれほど多くないから、ということが何の安心につながるのですか? 消費税だって最初は3%だったんです。一気にやれば国民の反発は必死です、少しずつ少しずつ、でも確実に苦しめる方向に行くのが常ではないでしょうか?
晴川雨読
2022年02月05日 23:38
>種子法廃止+種苗法改正+農業競争力強化法のこの三つと食物メジャー・・・
という陰謀論が「枝葉ばかり見ていて」森が見えないというものです。

旧種苗法は、UPOV条約違反。
自家増殖は「各締約国は,合理的な範囲内で,かつ,育成者の正当な利益を保護することを条件とし」を満たしていない。
農業競争力強化法:生産の知見を提供であって、品種や育成者権の払い下げではない。

事実と異なることを言って本質的でない議論ばかりしかしていないからダメなのです。