日本学術会議任命拒否された1名、加藤陽子氏の本
「もの言えぬ時代 戦争・アメリカ・共謀罪」を読みました。
日本学術会議の任命拒否された6名はどんなこと書いているのか興味が出たので加藤陽子氏(東京大学教授で日本近代史が専門)の本をピックアップしまみました。
この本は、多数の方の共著(厳密に言うと加藤氏のみ著で、他はインタビューを文章化したもの)で、加藤氏の部分は20ページ強なので、そこだけ先ず読んだ次第です。
ぱっと見は、事実関係は正しそうな事が書かれています(前半部分限定、後半については後に触れる)。
主張に関しては、性根がねじ曲がっているという感想です。
引用元を明記しているのは好感が持てます。
(と最初は思ったが、読み進めるうちに変わった。理由は下記参照。もちろん書くこと自体は良いこと。)
共謀罪と参加罪の両方とも立法化する義務は無いと読めますよね。
また、それを国際機関が太鼓判を押していると。
「※19」は 『長末亮「共謀罪をめぐる議論」61頁』を指します。
これを引用します。
前者は法務省の『「組織的な犯罪の共謀罪」の創設が条約上の義務であることについて』、
後者は日弁連の『共謀罪新設に関する意見書』。
日弁連の論理破綻については、下の方に書いておきますので、そちらをご覧ください。
そのため、加藤氏の根拠が1つ破綻したことになります。
再度加藤氏の記述を引用します。
手元にないので具体的にどんな質問をして、回答の全てを正しく翻訳して、全て引用しているかわかりません(加藤氏と同じように都合のいい部分だけ使っている可能性あり。本があっても質問と回答の原文なりが無いと確認できないが)。
本が手元に無いので、高山氏の記事『もし「共謀罪」が成立したら、私たちはどうなるか【全国民必読】』をリンクします。
そもそも、これも「だから何?」って話です。
ノルウェー・ブルガリア以外は元々共謀罪があったから、立法化が不要だったっていうだけの話じゃないの?
話を「ニコス・パッサス教授」の回答に戻します。
法務省が日本国政府として国連に問い合わせして次の回答があったと書いています。
個人(パッサス教授)の意思はある意味どうでも良いのですよ。
ということで、加藤氏の主張の根拠とするものが全て崩れたことになります。
高山氏の著書「共謀罪の何が問題か」の本の帯が笑えたので貼っておきます(帯は出版社が決めたのだろうが、意見は言えただろうから、これにある程度は同意したと思われる)。
Amazonの★5つのレビューを引用します。
「事実をもとに専門家の観点から問題を指摘してくれていて大変勉強になった。」
都合の良い事実だけ書いてありませんか?
立憲民主党の平岡秀夫氏が、これをもとに質問書を出しています。
「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案に関する質問主意書」とその「答弁書」をご覧ください。
以下は答弁書の抜粋です。
とういうことで、日弁連の共謀罪を設けなくても良い主張は破綻していることがわかって頂いたと思う。
2017年6月21日に公布された、いわゆる共謀罪(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律)をまだ見ていないのかなと思ったが、この本は2017年10月30日に出ていて、なおかつ「成立した時」と書かれているので、条文を知りえないわけではない。
法律みても「国体」なんて言葉は使われていない。
「内閣法制局が準備していた草案」とか書いているが、内閣法制局長だった阪田雅裕氏の本『「法の番人」内閣法制局の矜持』には、所管官庁が草案作って、内閣法制局が他の法律との整合性など検査したり、相談にのったりすると書いてあったが、本当かな?
「兵役義務を変革する行為」って、日本は兵役ないけど、本当にこんなこと書いてあったのだろうか?
非常に疑わしい。
事実関係だけでなく、主張のおかしさも個別に指摘しようと思ったが、事実関係だけで疲れ切ったので止めます。
「主張に関しては、性根はねじ曲がっているという感想です。」と書いたが、どんな感じか、1つの例えをします。
消費税増税という事実に対して、それがなぜ行われたか?と聞かれたら、
・財政赤字を減らすため
・財務省が上げろって言っているから
・国際機関が上げろと言っているから
・社会保障制度維持のため
と答える人が一般的かと思います。
しかし、加藤氏なら「庶民の生活を苦しくして、政府批判・デモなどする余裕を無くすため」と答えそう。
そういう感じの主張だらけです。
もの言えぬ時代 戦争・アメリカ・共謀罪
内田樹、加藤陽子、髙村薫、半藤一利、三浦瑠麗ほか
朝日新聞出版
2017/10/13
日本学術会議の任命拒否された6名はどんなこと書いているのか興味が出たので加藤陽子氏(東京大学教授で日本近代史が専門)の本をピックアップしまみました。
この本は、多数の方の共著(厳密に言うと加藤氏のみ著で、他はインタビューを文章化したもの)で、加藤氏の部分は20ページ強なので、そこだけ先ず読んだ次第です。
ぱっと見は、事実関係は正しそうな事が書かれています(前半部分限定、後半については後に触れる)。
主張に関しては、性根がねじ曲がっているという感想です。
引用元を明記しているのは好感が持てます。
(と最初は思ったが、読み進めるうちに変わった。理由は下記参照。もちろん書くこと自体は良いこと。)
TOC条約締結に共謀罪導入は不要?
政府は、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結のために共謀罪導入が必要とのことで立法化したと言うが、立法化は不要と加藤氏は以下のように書いています共謀罪と参加罪について、二つの概念導入を求めることなく、有効な手段をとることを各国に許容することの内容が記載されている。※19このガイドラインの当該部分を執筆した国際刑法学者ニコス・パッサス教授は、刑法の専門家である高山加奈子教授の質問に答える形で、TOC条約を締結するためとして、共謀罪や参加罪を国内法として整備することを、国連は前提としていないと明言している。これを読んだ人はどう思いますかね。
外務省をはじめとする日本政府は、大前提の部分に虚偽を含んでいたために、国際機関から公式に職務を委嘱された人物の提言、あれだけ神経質となったのではないか。高山氏によれば、国内担保法として共謀罪を創設した国は、ノルウェーとブルガリアだけだという。
共謀罪と参加罪の両方とも立法化する義務は無いと読めますよね。
また、それを国際機関が太鼓判を押していると。
「※19」は 『長末亮「共謀罪をめぐる議論」61頁』を指します。
これを引用します。
(2)国連立法ガイド共謀罪・参加罪のどちらか必要というものと、どちらも不要という2つの意見が書かれているが、加藤氏は後者しか説明しておらず、両論あることを書いていない(非常に不誠実だ!)。
国際組織犯罪防止条約に関する国連立法ガイド(47)のパラグラフ51には、共謀罪と参加罪について、2つの概念の導入を求めることなく有効な手段をとることを許容するといった内容(48)が記載されている。この文章の解釈についても見解が分かれる。共謀罪の創設が義務付けられているとする立場からは、いずれか一方を導入すれば、他方を導入する必要はないという意味であり、共謀罪か参加罪のどちらかの導入が必要であると解釈する(49)。一方、この文章については、両方とも導入する必要はないという意味であり、必ずしも共謀罪を導入する必要はないと解釈する見解もある(50)。
前者は法務省の『「組織的な犯罪の共謀罪」の創設が条約上の義務であることについて』、
後者は日弁連の『共謀罪新設に関する意見書』。
日弁連の論理破綻については、下の方に書いておきますので、そちらをご覧ください。
そのため、加藤氏の根拠が1つ破綻したことになります。
再度加藤氏の記述を引用します。
このガイドラインの当該部分を執筆した国際刑法学者ニコス・パッサス教授は、刑法の専門家である高山佳奈子教授の質問に答える形で、TOC条約を締結するためとして、共謀罪や参加罪を国内法として整備することを、国連は前提としていないと明言している。この件は高山佳奈子教授の著書「共謀罪の何が問題か」に書いていあるそうです。
手元にないので具体的にどんな質問をして、回答の全てを正しく翻訳して、全て引用しているかわかりません(加藤氏と同じように都合のいい部分だけ使っている可能性あり。本があっても質問と回答の原文なりが無いと確認できないが)。
本が手元に無いので、高山氏の記事『もし「共謀罪」が成立したら、私たちはどうなるか【全国民必読】』をリンクします。
実際、条約締結のために共謀罪立法を行った国としては、ノルウェーとブルガリアの2ヵ国しか知られていない。とか書いているので、本の中と同じような主張をしていると考えられます。
そもそも、これも「だから何?」って話です。
ノルウェー・ブルガリア以外は元々共謀罪があったから、立法化が不要だったっていうだけの話じゃないの?
話を「ニコス・パッサス教授」の回答に戻します。
法務省が日本国政府として国連に問い合わせして次の回答があったと書いています。
「国連の担当事務局が作成している『立法ガイド』によれば、共謀罪と参加罪のいずれも設けないことが許されるのではないか。」との指摘がありますが、「立法ガイド」の記載は、共謀罪又は参加罪の少なくとも一方を犯罪とすることを明確に義務付けている条約第5条の規定を前提として、共謀罪を選択した国は参加罪を設ける必要はなく、参加罪を選択した国は共謀罪を設ける必要はないことを述べたものに過ぎず(「立法ガイド」を作成した国連の担当事務局も、我が国の照会に対し、このような理解が正しい旨回答している。)、この指摘は当たらないと考えています。個人が、個人にした質問と、国が国連機関に照会した結果とどちらを信用しますかっていう話です。
個人(パッサス教授)の意思はある意味どうでも良いのですよ。
ということで、加藤氏の主張の根拠とするものが全て崩れたことになります。
高山氏の著書「共謀罪の何が問題か」の本の帯が笑えたので貼っておきます(帯は出版社が決めたのだろうが、意見は言えただろうから、これにある程度は同意したと思われる)。
Amazonの★5つのレビューを引用します。
「事実をもとに専門家の観点から問題を指摘してくれていて大変勉強になった。」
都合の良い事実だけ書いてありませんか?
日弁連の意見書のおかしなところ
(1) 現行法における予備罪,共謀罪等の存在現行法上,予備罪が31,準備罪が6があり,さらに共謀罪が13,陰謀罪が8あり,合計58の主要重大犯罪について,未遂よりも前の段階で処罰することが可能な立法が存在しているこのように、日弁連は言っているが、TOC条約第五条3には次のようにある。
国内法が組織的な犯罪集団の関与するすべての重大な犯罪を適用の対象とすることを確保する。「主要重大犯罪≠すべての重大な犯罪」です。
同条約第5条の履行に関して報告を行った48ヶ国のうち,少なくとも5ヶ国(ブラジル,モロッコ,エルサルバドル,アンゴラ,メキシコ)は,同条約第5条第3項の追加要件について,組織犯罪集団の関与を要件としながら,組織犯罪集団の関与する全ての重大犯罪を適用対象としていないことを自認している 。ブラジルとかが要件を満たしていないから、共謀罪不要と言いたいようです。
立憲民主党の平岡秀夫氏が、これをもとに質問書を出しています。
「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案に関する質問主意書」とその「答弁書」をご覧ください。
以下は答弁書の抜粋です。
我が国政府より照会したところ、ブラジル、モロッコ、エルサルバドル及びメキシコの各国政府によれば、各国内において条約第五条1(a)に規定されている行為は犯罪とされているとのことである。また、アンゴラは、条約の署名国であり、まだ締約国とはなっていないと承知している。はい解散~。
なお、日本弁護士連合会が作成した本年九月十四日付けの共謀罪新設に関する意見書には、国際連合薬物犯罪事務所が作成した文書によるとブラジル、モロッコ、エルサルバドル、アンゴラ及びメキシコの五箇国は、組織的な犯罪集団の関与するすべての重大犯罪を共謀罪の適用対象とはしていないことを自認している旨の記載があるが、当該文書を作成した国際連合薬物犯罪事務所によれば、同文書は古い情報に基づくものであり、その後同事務所が作成した文書では、これら五箇国のいずれについても条約第五条の実施に当たって何らかの問題があるとは記載されていないとのことである。
とういうことで、日弁連の共謀罪を設けなくても良い主張は破綻していることがわかって頂いたと思う。
共謀罪に対する指摘の誤り
加藤氏への指摘に戻ります。興味深いことには、法律のプロが準備した草案段階では、処罰の対象が、きちんと限定されていたことである。当初、内閣法制局が準備していた草案には、「国体の変革」といった曖昧な字句は無く、「罰金以上の刑で罰せられる行為」「憲法上の統治組織、納税義務、兵役義務、私有財産を変革する行為」との限定があった。しかし、成立した時には、国体の変革、というあいまいな条文と化した。何書いているんだ!っていう内容です。
2017年6月21日に公布された、いわゆる共謀罪(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律)をまだ見ていないのかなと思ったが、この本は2017年10月30日に出ていて、なおかつ「成立した時」と書かれているので、条文を知りえないわけではない。
法律みても「国体」なんて言葉は使われていない。
「内閣法制局が準備していた草案」とか書いているが、内閣法制局長だった阪田雅裕氏の本『「法の番人」内閣法制局の矜持』には、所管官庁が草案作って、内閣法制局が他の法律との整合性など検査したり、相談にのったりすると書いてあったが、本当かな?
「兵役義務を変革する行為」って、日本は兵役ないけど、本当にこんなこと書いてあったのだろうか?
非常に疑わしい。
事実関係だけでなく、主張のおかしさも個別に指摘しようと思ったが、事実関係だけで疲れ切ったので止めます。
「主張に関しては、性根はねじ曲がっているという感想です。」と書いたが、どんな感じか、1つの例えをします。
消費税増税という事実に対して、それがなぜ行われたか?と聞かれたら、
・財政赤字を減らすため
・財務省が上げろって言っているから
・国際機関が上げろと言っているから
・社会保障制度維持のため
と答える人が一般的かと思います。
しかし、加藤氏なら「庶民の生活を苦しくして、政府批判・デモなどする余裕を無くすため」と答えそう。
そういう感じの主張だらけです。
もの言えぬ時代 戦争・アメリカ・共謀罪
内田樹、加藤陽子、髙村薫、半藤一利、三浦瑠麗ほか
朝日新聞出版
2017/10/13
この記事へのコメント