トリチウムの海洋放出は有害か?①(岩倉政城 尚絅学院大学名誉教授)

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トリチウムは生物濃縮されて危険だ!って言う人達が結構いるので、その根拠となるものを見ていきましょう。

第1回は、岩倉政城 尚絅学院大学名誉教授の「事故原発汚染水から高濃度有機結合型トリチウムが生成海洋放出で魚介類に濃縮が国と東電は無機トリチウムだから危険は無視できると言い逃れてきた」です。

タンク内の有機炭素を無視するな!(by 岩倉氏)

1.汚染水処理水タンク内で有機物の生成と微生物の生息が東京電力調べで明らかになった。
・Sr処理水タンクK2-B1中層【採取日2018/10/22】をはじめとして得られた処理水12サンプル全てからTOC(全有機炭素)検出
・内面点検代表タンク【2019.2.28再掲資料】G3-E1をはじめとして得られた処理水10サンプルの全てから有機炭素を検出、うち4資料では硫酸還元菌を検出。

2.タンク内のトリチウム濃度は平均で海水の約100万倍であり、タンクの中で生成された有機物には有機結合型トリチウム(以下OBTと略)が、海洋で一般に作られる有機物に含まれるトリチウムの約100万倍が割合として含まれることとなる。(海水中トリチウム平均0.72Bq/L、タンク内汚染水処理水平均73万Bq/L)

3.にもかかわらず「多核種設備等処理水の取り扱いに関する小委員会」(以下小委員会)も「東電」の検討でもトリチウムは無機であることを前提に、海洋に放出されても生物学的濃縮はなく、仮に魚介類に取り込まれても生体内半減期が約12日で交換される、としてOBTを考慮していない。

4.水棲生物は海洋にある有機物(OBTを含む)を栄養物として選択的に吸収して増殖繁茂し、魚介類も同じくOBTや水棲生物を餌として摂取し、腸管から選択的に消化吸収することから、魚介類の体内にOBTは濃縮して蓄積される。
岩倉氏の主張を軽くまとめます。

①タンクの中に有機炭素がある

②硫酸還元菌などにより、有機炭素の水素がトリチウムに置き換えられ、無機トリチウム(HTO)から有機トリチウム(OBT)に変換される

③トリチウム濃度が海水の100万倍あるので、②の起きる確率が非常に高くなる

④魚などは、海水から有機物を濾しとって摂取するので、有機トリチウムが重要

だから、有機トリチウムについて言及しないのはあり得ない!


事実確認と実際の影響を見積もる

では、見ていきましょう。
この件は、東電の「東京電力ホールディングス株式会社硫化水素検出に伴う溶接型タンクの内面点検結果及び今後のタンク計画について」に載っている。
この資料上、TOC(全有機炭素)の最大は17mg/L(汚染水処理設備 2020年度の分析結果を見ると5mg/L)。
そして、朝日新聞の記事によると、トリチウムは平均 73万Bq/L。

・有機炭素が全てメタノール(CH3OH)で存在し全て水に溶けている
・タンク内で水(H2O)とメタノールでトリチウムが同じ反応速度で交換される
と仮定(最も悪い場合を想定)して計算します。
1,000,000mg(≒1L) × 2 / 18 : 17mg × 4 / 32 = 730,000Bq/L : X
※原子量 H=1、C=12、O=16
X = 14Bq/L = タンクの中の有機トリチウム(OBT)濃度

14 × 1,500 / 730,000 = 0.029 Bq/L(海洋放出時のOBT濃度)
17 × 1,500 / 730,000 = 0.035 mg/L(海洋放出時のTOC濃度)
※73万Bq/Lを1,500Bq/Lに薄めて放出

大阪湾,播磨灘海水及び流入河川水における有機物濃度の変動」によると、海水中のTOCは、少ない場所でTOCは1mg/Lとなっている。

・有機トリチウムとトリチウムを含まない有機炭素の魚への取り込み速度が同じと仮定(実際は後者の方が高い。分子量が少ないため)
・海洋放出された処理水と海水は一切混ざらない
と仮定して、魚に取り込まれるOBT濃度を計算してみましょう。

0.029Bq/L × 0.035mg/L /(0.035mg/L + 1mg/L)= 0.000,49 Bq/L

水産省の「水産物についてのご質問と回答(放射性物質調査)」より以下引用します。
トリチウムは、考慮しなければならないほど高濃度かつ継続して環境中に放出されていないため、厚生労働省が実施する食品のモニタリングではトリチウムの検査は実施されていません。東京電力が福島第一原発の20km圏内で採集した魚類のトリチウム測定結果を公表していますが、その値は0.047~0.084Bq/kg(2018年度)となっており、魚類の採取地点付近の海水中の濃度(0.057~0.076Bq/kg、2018年度)とほぼ同じ値となっています。なお、震災前10年間に日本国内の魚類から検出されたトリチウム濃度は0.13~3.0Bq/Lとなっています。

0.13~3.0Bq/L(震災前魚類のトリチウム濃度) >>> 0.000,49 Bq/L(海洋放出によって魚類に取り込まれる有機トリチウム濃度)

このことから、海洋放出される有機トリチウムによる影響はありません。

単に有無で議論する意味がないことが良くわかると思います。
有る時に、その濃度がどうなのか見ない事には話にならないということです。

超矛盾した説明

岩倉氏の資料に以下の説明および図がある。
iwakura_fig1.png
「トリチウム水」は「水」と同じ挙動をすると書いていますな。
そうであるならば、「有機水素化合物」と「有機トリチウム化合物」も同じ挙動をすることになります。

有機トリチウムが「栄養源として選択的に吸収」とあるが、「トリチウム水と比較して」という意味ですな。
「有機水素化合物」と「有機トリチウム化合物」の挙動が違わないのだから、「有機トリチウム化合物」が「有機水素化合物」と比較して選択的に吸収されるわけではない。

「有機トリチウム化合物」が「有機水素化合物」と比較して選択的に吸収されるのならば、タンクの中で金魚でも育てて、成長したら取り出せばよい。
しかし、そんなことは無い。だから、簡単にトリチウムを分離できないのだ。

有機トリチウムとトリチウム水の違いは、単に取り込まれてから排出されるまでの時間の長短だけ。
取り込み始めたばかりは、図のように「取り込み量 > 排出量」となるが、時間がたてば「取り込み量 = 排出量」となる。
その理由は、挙動の違いがないから。

この記事へのコメント

シラブル
2024年04月08日 08:57
「トリチウム水」は「水」と同じ挙動をすると書いていますな。
そうであるならば、「有機水素化合物」と「有機トリチウム化合物」も同じ挙動をすることになります。・・・・そうではないでしょう。「トリチウム水」HTOは「水」と同じ挙動をする、しかしOBTのように水として取り込むことと違って、食物連鎖として海藻、プランクトンなどから小魚、魚という連鎖で炭水化物やたんぱく質などとして取り込む違いがあるのではないだろうか。

時間がたてば「取り込み量 = 排出量」となる。・・・それはそうですが、OBTはDNA分子構造に取り込まれたときのリスクはHe変換で分子構造がミスコピー分裂してしまうことではなでしょうか。

ということで、
0.13~3.0Bq/L(震災前魚類のトリチウム濃度) >>> 0.000,49 Bq/L(海洋放出によって魚類に取り込まれる有機トリチウム濃度)

このことから、海洋放出される有機トリチウムによる影響はありません。・・・水として0.13~3.0と食物連鎖のOBT濃度とは大小の比較は同列にはできないのではないでしょうか。
晴川雨読
2024年04月08日 18:34
>シラブルさん
>
>しかしOBTのように水として取り込むことと違って、食物連鎖として海藻、プランクトンなどから小魚、魚という連鎖で炭水化物やたんぱく質などとして取り込む違いがあるのではないだろうか。

福島第一原発から排出するのは OBT ではないので、その時点で話がずれています。
自然界で光合成などでOBTができたとしても、そうでない有機物の比率以上になりません。なぜなら同位体効果で反応が遅いから(トリチウムが水素より重いので)。

>OBTはDNA分子構造に取り込まれたときのリスクはHe変換で分子構造がミスコピー分裂してしまうことではなでしょうか。

https://seisenudoku.seesaa.net/article/481114125.html
で触れていますが、二重らせんが切れることはほとんど起きないので、普通に外部の水から水素を奪って修復されます。

以上のことから、ALPS処理水放出では、観測できる影響は出ません。