知的貧困が疑われる人の本 - その②

(株)貧困大国アメリカ 」を途中まで読みました。惚れ惚れするほどの、デマ・間違いオンパレード。
関連:その、「日本が売られる

今回のツッコミは農業・食品系です。

養鶏場の年収

今では生産者の98%が、親会社の条件の下で働く契約養鶏者なのです。・・・ジャックの実家の養鶏場に入る年収はわずか1万5千ドル(約150万円)。大手と契約するこの種の工場式養鶏場の中では、平均値だという。
では、米国農務省の「Farm business average net cash income(農業事業の平均純現金収入)」を見てみましょう。

1農場当たりの金額ですが、2012年:164.7、2013年:161.3 ・・2021年:137.4 となっています。
大体あっているじゃん、などと思ってはいけません。
単位は1000ドルです。164.7→164,700ドル = 1647万円です。

その金額は売上だ!って言いたい人がいるかもしれませんが、これ gross ではなく、 net なのですよね。

グリホサートのよくあるデマ

ヨーロッパでは既にこの除草剤は発がん性を有し、奇形、喘息発症を誘発するなど安全性に問題があるとして、禁止されています。
こちらをご覧ください。
ヨーロッパでグリホサートが禁止されているというのは大嘘です。

ウォルマートはぼろ儲け?

今では売り上げの半分以上を食品が占め、全米のどこかで食品が買われるたびに、3ドル中1ドルがウォルマートのポケットに入るという。
寡占化によってトップになったウォルマートの影響力は、アメリカ経済の隅々にまで及び、食品業界は完全にその支配下に置かれるようになった。
農林水産省の「食料消費と食品産業の動向 ウ 食品産業の動向」から以下引用します。
小売価格に占める各流通経費等の割合
日本の情報ですが、小売経費・仲卸経費を足すと33%で1/3ですね。

「3ドル中1ドルがウォルマートのポケットに入る」って何かおかしいですか?

カナダは先進国ではないらしい

アメリカは先進国で唯一、遺伝子組み換え食品に表示義務がない。
TPP関連の内閣官房の資料から以下引用します。
各国の遺伝子組換え食品表示義務の有無

この情報は、出版日直前のものなので、一応新しい情報を確認してみます。
(遺伝子組み換え作物)世界各国の法制度|カナダ|バイテク情報普及会」に以下のように書かれています。
表示を義務化しようという法案に関しては、議会に提出されましたが、2017年5月に否決されています。

堤氏によると、G7にも含まれるカナダは先進国ではないそうです。中学の地理のテストで×もらうね。

ちなみに、TPPと関係ないEU、スイスには表示義務あります。

在来種の自家増殖禁止?

さらにこの法律(※FSMA 米国食品安全強化法)は、国内の農家に在来種の種子を保管して翌年使うことも禁止しています。今後農家は巨大アグリビジネスと種子企業の下で、完全に主権を失うことになる。
どっかで聞いたようなフレーズですね。
そうです、種苗法改正の時のデマが伝えるところと同じです。

在来種の自家増殖が禁止なわけないだろうと、調べてみました。

アメリカの PolitiFact というサイトの「Food safety law to regulate your backyard garden? No, it doesn't.」に載っていました。
デマですと。
アメリカのデマが日本に飛び火して、日本のデマ屋の耳にも入ったようです。

田中康夫氏のサイトでもデマをばら撒いていました。
こんな人だったのね。知りませんでした。
羊頭狗肉なアメリカの2012年「食品安全近代化法」&2013年「モンサント保護法」更に世界最大の農薬消費国ニッポン

GM(遺伝子組み換え)種子

イラク人失業者の急増とコスト削減で急速に拡大した収益は、一ドルたりともイラク国内に残らなかった。・・外資系企業が参入しやすくするために、CPA(連合国暫定当局)は40%だった法人税を15%に削減・・
法人税があるのに利益が一ドルたりともイラク国内に残らないとはどういう意味だ?
もしや、イラクの通貨はディナールだからだよ~っていうわけじゃないよね?
意味不明。

次はインドの話。
農民たちは膨れ上がる支払いに首が回らなくなり、次々に自殺に追い込まれていった。2000年半ばから農民の自殺率は上昇し、2011年までに自殺者数は27万に達した。
Bt綿花は遺伝子組み換えで殺虫性毒素を持ったものです。
この自殺の話は色々なところで見かけるが、調べたことは無かった。

Nature誌が「ウソ」と断定~Btワタとインド農民自殺の因果関係 – FOOCOM.NET
この記事によると、Bt綿花が導入されても農民の自殺率に変化はなかったとあります。
ただし、Bt綿花の種は高いので、偽物を混ぜたのをつかまされた苦境に陥った人はいたそうです。

しかし、いろんなデマを拾ってくるスキルがありますね。

12億の人口抱えるインドでは「1%と99%」の構図で描かれるアメリカをはるかにしのぐスピードで二極分化が進行している。・・・人口の1%ならぬ0.1%に相当するわずか100人の超富裕層がGDPの四分の一を所有しているからだ。
12億人の0.1%は、120万人ですね・・・

「知的財産権」が企業にもたらす恩恵は食だけではない。ジェネリック薬生産大国のインドに対しEUの製薬会社が特許権を主張すれば、途上国に輸出される医薬品の供給にストップがかかるだろう。
おい、この人、マジで大丈夫か?

お次はメキシコ。
NAFTAによってメキシコには、大量のGM種子が大波のように流れ込んだ。バイオ種子企業は、メキシコに古くからある原種トウモロコシや豆類を一部遺伝子操作してから商品化、新製品として特許を取得・・・・これ以降メキシコ国民は、マジョコバ豆などの先祖代々受け継いだ作物を栽培するためには、GM企業に特許料を支払うか、毎年その種子を購入しなければならなくなった。
はぁ?何言ってんの。
UPOV条約で、「先祖代々受け継いだ作物」と「新品種(この場合はGM種子)」は明確に別物で、「GM種子」の権利は「先祖代々~」には及びません。

それまでにメキシコでは、小規模農家が各自トウモロコシを育てていたのだが、NAFTA後には食全体の四割を輸入に頼らざるをえなくなってしまった
騙す気満々ですね。
書くのならば、NAFTA前の輸入比率を記すべきです。そうでなければ、どれだけ増えたのかがわからない。
三割九分から四割になったかもしれないし、0%からなったかもしれないし、書かないと全く評価できない。
そして、輸出量も書かないとダメだ。

と言うことで農林金融の「NAFTA発効後のメキシコ農業─大規模農」より図表を引用して見てみましょう。

メキシコの農産物貿易収支
輸出入ともに86年から増えています。
仮に、輸入だけ増えているのならば、堤氏の書き方はミスリードとは言わないだろうが、実際はそうではない。
また、NAFTAは1994年に発効していますが、増加の傾向はその前からなので、NAFTAに帰す問題なのか微妙なところだ。

メキシコ農産物主要品目の輸出入状況
なぜ、輸出入が増えているかと言うと、競争力が低いものから、高いものに変えているということですね。

お次は韓国。
GM作物についても、事前の安全性チェックは開発企業側が提出する自己申告データの書類審査のみとなり、表示義務も撤廃された
米韓FTA(発効:2012年3月15日)に際して、上記のようになったと書かれています。

では、GM表示について書かれている韓国の食品衛生法のこの本の出版日(2013/6/28)に最も近い版の条文を引用します(機械翻訳)。
第12条の2(遺伝子組換え食品等の表示) ①生物の遺伝子のうち有用な遺伝子のみとり、他の生物の遺伝子と結合させるなどの遺伝子組換え技術を利用して栽培及び育成された農産物及び畜産物及び水産物などを主な原材料として製造・加工した食品や食品添加物(以下「遺伝子組換え食品等」という。)は、遺伝子組換え食品であることを表示しなければならない
②第1項の規定により表示すべき遺伝子組換え食品等は、表示がなければ販売したり販売する目的で輸入及び陳列及び運搬したり、営業に使用してはならない。
③第1項の規定による表示義務、表示対象と表示方法等に必要な事項は、食品医薬品安全処長が定める。 <改正2013. 3. 23.>
[本条新設2011. 6. 7]
ふ~ん、表示義務が撤廃されたのね・・・



(株)貧困大国アメリカ
堤 未果
岩波書店
2013/6/28

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