東大農学教授の倫理消滅 ⑤食の安全保障編

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農業消滅」の第5章「安全保障の要としての国家戦略の欠如」を読みました。

この本は、東京大学鈴木宣弘教授の本です。
教授のコラム等へのツッコミはタグを参照ください。重複する分はここでは触れません。

カナダと日本の関税


特にカナダは、穀物を中心に農産物の大輸出国で、農産物関税も低いと思い込んでいる人が多いと思うが、表1の数値は衝撃的である。
 単純平均で15.7パーセントというカナダの農産物関税率は、日本の13.3パーセント、EUの10.8パーセントよりも高い。しかも、カナダが徹底的に守る姿勢を崩さない酪農については、なんと、平均関税が249.0パーセントという突出した水準になっている。
主要国の農産物・乳製品の関税率(2017年)
※上記表は鈴木教授のコラムから引用

完全に騙すつもりでこれ書いていますね。
上の表ですが、乳製品の方に加重平均が無いのは何故でしょうか?
それを書くと都合が悪いからです。

Does Canada really charge a 270% tariff on milk?」によるとクォータ制にしていて、一定量になるまでは7.5%、超えると241%(牛乳の場合)になるそうです。
これは日本におけるコメと同じようなものです。

穀物における平均・最高税率を比べてみましょう。
平均最高税率
日本33.5736
韓国187.1800
EU12.342
スイス24.3250
ノルウェー51.2427
US3.139
カナダ20.4277
豪州1.15
NZ2.45
※「WORLD TARIFF PROFILES 2018」のデータをもとに作成

乳製品だけ見たときとはイメージが変わりますよね。
そもそも、税率の単純平均、加重平均を見てもどれだけ保護しているかわからない。

日本ではコーヒーは栽培できないので関税は0%でしょう。
だが、コメは保護したいので関税を高くするが、クウォーター制のため一定量までは低関税で輸入され、それを超えると高くて輸入されない。
このことから、実際に輸入された量・その関税で加重平均すると見た目の関税が低くなり、あたかも保護されていないかのよう感じてしまう。
そうなるように鈴木教授は誘導しているのです。

では、日本のコメとカナダの牛乳で実際に保護の程度がどのくらい違うか見てみましょう。
鈴木教授が都合のいいデータだけ引っ張り出して来ていることがわかるでしょう。

FAOの2016年データをもとにします。
 生産量「Crops and livestock products
 生産者価格「Producer Prices
 輸入量・価格「Crops and livestock products
 農林水生産額「Macro Indicators

■日本
コメ生産量:10,934,000 トン
コメ生産者価格:1,884 USD/トン
コメ輸入量:666,563 トン
コメ輸入価格:428,257 千USD
農林水生産額:122,598.993 百万USD

コメ国内生産額:20,599.656 百万USD
コメ国内/輸入価格比:2.93
コメ国内生産額/農林水生産額:16.8%

■カナダ
牛乳生産量:8,440,863 トン
牛乳生産者価格:928 USD/トン
牛乳輸入量:47,049 トン
牛乳輸入価格:16,112 千USD
農林水生産額:70,523.615 百万USD

牛乳国内生産額:7,833.120 百万USD
牛乳国内/輸入価格比:2.71
牛乳国内生産額/農林水生産額:11.1%

この結果を見てもらえばわかりますが、カナダも日本も守るべきものは同じように守っているのです。
「客観的データで・・国家戦略を確立する必要がある」などと書いているが、鈴木教授は客観的データを恣意的に利用しているからダメなのです。

ミニマム・アクセス米


ミニマム・アクセスは、日本が言うような「最低輸入義務」ではなく、アクセス機会を開いておくという意味であり、需要がなければ入れなくてもよいのである。
・・・
日本が、本来、義務ではないのに、毎年77万トンの枠を必ず消化して輸入しているのは、アメリカとの密約で、「日本は必ず枠を満たすこと、かつ、その約半分の36万トンはアメリカから買うこと」命令されているからである。
下記を見てもらえばわかりますが、日本政府は「最低輸入義務」などと言っていません。

MA米の運用に関する政府の方針・見解
※農林水産省の「コメの輸出・輸入」より引用

まあ、アメリカからの圧力はもちろんあるだろうが、何でもかんでも政府・多国籍企業のせいにするのはいかがでしょう?
以下を見てもらうとわかるが産業用に需要がある。
野放図に輸入すると国内米農家に影響でるので、それを回避するための保護目的行為であると最初に思いつきませんか?
ミニマム・アクセス米の販売状況

基本が全くできていない農学教授

鈴木教授は、政府が正しい農政したら食料自給率が100%になるかのように書いている。

江戸時代と現代の食料自給率の違いは政策が原因 by 東大教授
日本の食料自給率100%できると思っているの?
にも書きましたが、日本は絶対的に耕地面積が足りないのです。
一人養うのに 0.14ha 必要だが、0.03ha しかないのです。
そのため、人口を少なくとも現状の1/3に減らさないと食料自給率100%にはならない。

その当たり前のことがわかっていないので、このようなアホなことを書くのです。
(わかった上で騙すために、このようなアホなことを書いているのでしょうけど)

100%にはできない前提で、何をすべきかを考えるべきなのだ。
不正確・間違った情報を流布するのは大学教授として倫理感が消滅しているとしか思えない。

鈴木教授の著書「農業消滅」へのツッコミは以上終了。

農業消滅: 農政の失敗がまねく国家存亡の危機
鈴木 宣弘
平凡社
2021/7/19

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