デマの果実はどうなる!? ③野菜編

タネはどうなる!?」を読みました。

民主党政権時代に農林水産大臣だった山田正彦氏の著書です。
24ページある「第2章 野菜の種子は国産100%からすでに海外生産が90%に」へのツッコミです。

F1≠雄性不稔

こうして数千万株に1つしかない雄性不稔、いわば無精子症の突然変異株を見つけ出して、両方の特性を持つ一代雑種、F1(First Filial Generation)を大量に生産できる技術を完成させたのだ。
不正確ですね。
F1を作る方法としては以下がある。

1.雄性不稔
2.他家受粉
3.雌雄異株
4.自家不和合性
5.雄花、雄しべ除去

大量生産できるのは5を除いたもので、雄性不稔はその一つでしかない。


F1不妊原因説

野口勲さんはF1のタネ取に使われているミツバチに異変が起こったと述べている。・・・野口さんは交尾のために数匹しか生まれない雄蜂たちが、男性不妊、無精子症になっているのではないだろうかと仮説を立てている。
 さらに異常を起こしているのは、ミツバチだけではない。人の男性の精子の数は・・・すでにその数は成人の2割に達しているといわれている。科学的に証明されているわけではないが、F1の種子が雄性不稔から作られていることに私は不安を感じる。・・・
 高知県で在来種を守る活動をしているジョン・ムーアさんはF1と固定種のアルファルファの栄養成分をテキサス大学で行った結果、明らかに差があったという。そして「このような不自然なものを食べることに問題がある」と指摘している。
 私は科学的なことは全くわからないが、直感として野口さんの仮説は無視できないと考えている。
典型的な不安を煽る行為ですね。

この無精子症F1原因説の胡散臭さを見ていただきましょう。

雄性不稔を利用したF1の作り方の解説したいと思うのですが、まず雄性不稔の説明が必要ですね。

■雄性不稔
雄性不稔には3種類ある。
1.核遺伝子のみで発現するもの
2.細胞質遺伝子(ミトコンドリアの遺伝子)のみで発現するもの
3.細胞質遺伝子と核遺伝子の相互作用で発現するもの
  これは、細胞質雄性不稔(Cytoplasmic Male Sterility,CMS)とよばれる。

F1を作るヘテロシス育種(雑種強勢育種)では、3を利用する。
3の相互作用とは何かを説明します。

雄性不稔は核の遺伝子によって引き起こされるものではなく、ミトコンドリア遺伝子によって引き起こされる。
しかし、正常な核には稔性回復遺伝子Rf(優勢)があり、ミトコンドリアの不稔性を打ち消している。
雄性不稔遺伝子rf(劣性)を両親から引き継いで rfrf となった場合にのみミトコンドリアの不稔性を打ち消さない。

こうやってできた雄性不稔の片親(雌)と別の株の花粉(雄)でF1を作る。

ここで大事なことを書きます。
F1に限らず、ミトコンドリアは動物・植物ともに母系遺伝(父の形質を引き継がないで母のものだけ受け継ぐ)なのです
そのため、F1は全て雄性不稔のミトコンドリア遺伝子を持つことになる。

この性質から、ミツバチやヒトが不妊になると野口勲氏や山田氏は言っているのです。

野口氏の主張は『野口 勲「ミツバチは、なぜ巣を見捨てたか?」』にあるのですが、お笑いです。

最初のF1が1940年代にタマネギで登場し、20年ごとに無精子症が発現していると。
それはF1の花粉や蜜をエサにしたのが原因とのことです。

では、ここからツッコミます。
まず、蜜は関係ありませんね。蜜は糖であってミトコンドリア含まれませんから。
では、花粉に含まれるミトコンドリアやミトコンドリア遺伝子がミツバチの細胞に取り込まれるのでしょうか?

BSEのプリオンタンパク質のことを例に挙げ、腸から吸収されたのだからミトコンドリア・ミトコンドリア遺伝子が吸収されてもおかしくないだろうと言っています。
タンパク質とオーダーが違うので、常識的には吸収されないでしょうが、仮に吸収するとしましょう。
免疫系を全て回避して吸収されたものが、血管を通って卵巣までたどりつき生殖細胞に取り込まれないと生まれた雄が無精子症になりません。

ちょっと考えてみましょう。
植物のミトコンドリア・ミトコンドリア遺伝子は動物に取り込まれるのでしょうか?
野生動物は、大昔からしこたま植物を生のまま食べています。
そんなに簡単にミトコンドリア・ミトコンドリア遺伝子が動物に取り込まれるのならば、
動物と植物のミトコンドリアは近しいものになっていているでしょう。

野口氏は、ミトコンドリアが動物も植物もATPを作るので、同じものだと思っているから、こんなアホな仮説を立てるのでしょう。
しかし、実際は全く違います。
ミトコンドリアの大きさ・形態、遺伝子の種類・数も違うのです(例えば、植物のミトコンドリアゲノムは哺乳類の10倍以上ある「植物ミトコンドリアゲノムの不思議とその改変の試み」より)。
しかも、ミトコンドリアは核によって制御されています。
動物の核が植物のミトコンドリアを制御できるのでしょうか。

仮に取り込んだとしても機能せずに死産するでしょうね。

1940年代に一気にタマネギのミトコンドリアをミツバチが取り込んだようなことを言っています。
もしそうならば、ミツバチのミトコンドリア調べればすぐに結果がわかるでしょう。

最後に山田氏は「私は科学的なことは全くわからないが」と書いています。
自書で「動植物の細胞壁」と書くくらいなので、科学に無知であることを知っています。
そうであれば、出版前に専門家に書いていることをチェックしてもらうべきですね。
(だが、そんなことはしない。それは、デマ屋だから。)
ちなみに野口氏も、その主張を見ればわかる通り、ド素人です。

参考文献
雄性不稔遺伝子と稔性回復遺伝子
細胞質雄性不稔性の分子機構
花粉を作らない雄性不稔のメカニズム—核とミトコンドリアの不思議な共生—
植物のミトコンドリアはなぜ小さくて数が多いのか?
応用展開が進みつつある植物ミトコンドリア基礎研究と今後の課題
植物ミトコンドリアの分裂, 融合, ダイナミクスの解析
生命科学に興味ある人のためのプリオン病の解説
世界初の植物ミトコンドリアのゲノム編集に成功 〜F1育種において重要な細胞質雄性不稔性の原因遺伝子を特定〜
 これ凄いです。
植物ミトコンドリアゲノムの不思議とその改変の試み


タネはどうなる?!~種子法廃止と種苗法運用で
山田正彦
サイゾー
2018/6/25

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