地の底に落ちた国際ジャーナリスト③ リーマンショック編

沈みゆく大国 アメリカ」を読みました。

自称国際ジャーナリストの堤未果氏の本です。
ツッコミ3回目の対象は『第3章 リーマンショックからオバマケアへ』です。過去記事はタグを参照のこと。

また盗用だよ

非営利の政府監視機関パブリックシチズンのデータによると、金融危機から半年もたたないうちに、六大メガバンクは243人のロビイストを雇い入れている。うち33人は元国会議員の事務所主任、54人は元議会金融規制員だ。2009年末までに金融業界が雇い入れた元政府職員の数は1447人に膨れ上がり、彼らの精力的な働きかけによって、六大メガバンクは金融危機の責任を逃れることに成功する。
将来の利益を大きく左右する銀行の投資部門分離を含む金融規正法については、特に力が入れられた。メガバンクは、同法の審議時期に1日平均1億ドル(100億円)という法外なロビイング費用を使って議員たちに圧力をかけ、規制法成立までに費やされたロビイング費用の合計については300億ドル(3兆円)に達した。

この記述からは、パブリックシチズンの情報を直接参照しているように読みとれますね。
しかし、そうではありません。

パブリックシチズンの元記事「More Than 900 Ex-Government Officials, Including 70 Former Members of Congress, Have Lobbied for the Financial Services Sector in 2009」にないことを堤氏はパブリックシチズンのデータとして引用しているのです。

では、堤氏はどこから引用しているのか?
調べたらPOLITICOというサイトの「BIG BANK TAKEOVER(大手銀行の買収)」にありました。
これを参考資料にも書かず、本文でも紹介せず使っています。

なお、金額のことはパブリックシチズンの資料には一切なく、POLITICOにしかありません。
堤氏は1日1億ドル、合計300億ドルとあり得ない数字をかいていますが、POLITICOにもちろんそんな桁違いの数字はありません。

POLITICOにあるのは、1日140万ドルという数字です。桁が2つ違います。
アホですね。

ちなみに、こんなクソみたいな本は買っていません。
図書館で借りたものですが、以前借りた人が誤りを修正しようとしているのですが、それが面白いのでお見せします。
「沈みゆく大国 アメリカ」の誤りを修正しようとしたが間違っている
×をつけるところは「億」ではなく「円」ですよ~。
※先のは訂正したうえで引用しています

校正をまるでしていないのでしょう。
やされたロビイング用」も普通は直させるよね。
どちらかの「費」を消した表現にするでしょう。
「頭痛が痛い」みたいなものですから。

言論統制?

クリントン後に就任したブッシュJr.大統領が担当したのは、言論統制、そして公教育と自治体の労働組合の解体だ。
・・・
治安を守るという大義名分のもと、国内監視は正当化され、まずは〈愛国者法〉、続いて〈国防受給法〉など、自由な言論をおさえ、政府に権限を集中させる一連の法律が次々に成立していった。
「国防受給法」って何ですかね?
Googleで検索しても何も出てこないし、Bingもこの本を引用しているブログ1つしかヒットしない。

9・11同時多発テロ事件以後の米国におけるテロリズム対策」に時系列が書かれているのでそれを見ると次のようにある。
・2001/09/11 同時多発テロ事件発生
・2001/10/28 2001年米国愛国者法(U.S.A PATRIOT Act)制定
・2002/11/25 2002年国土安全保障法(Homeland Security Act of 2002)制定
        この法律により国土安全保障省(Department of Homeland Security)が創設される
・2004/12/17 2004年情報機関改革及びテロリズム予防法(Intelligence Reform and Terrorism Prevention Act of 2004)成立
・2005/05/11 2005年 REAL ID 法成立
        難民・移民制度改革、メキシコ国境のフェンス設置、運転免許証及び身分証明書等の連邦統一基準の作成
・2005/12/22 米国愛国者法の時限規定の時限を2006.2.3に改正する法律成立

架空の法律を持ち出して非難されても困ります。

愛国者法も上記見るとわかるように時限法で、この本が出た後の2015年6月1日に失効している。
「言論統制」「自由な言論をおさえ」というのもいかがなものかと。
プライバシーの問題はあるだろうが、なんらかの発信すること妨害・規制しているものではないのですよね。
堤さんよ、米国愛国者法の概要読んだら?

ミスリードするグラフしか描けませんか?

公共を民営化していく過程で非正規が増えるという文脈の説明のためだと思うが、以下のグラフが貼ってありました(本文中での解説は無し)。
堤氏が米国労働統計局のデータから作ったというグラフ

ツッコミどころ満載ですね。
・単位が書かれていない
・1990-2013年とあるが、2013年のデータは含まれていない
・「Bureau of Labor Statistics」って「米国労働統計局」のことですが、一般訳があるのに原語で書く理由は何?

最大のツッコミどころは、フルタイムの推移が書かれていないので、相対的にパートタイムが増えたかがわからない。
まともなグラフをお見せしましょう。
アメリカのフルタイム・パートタイム雇用者の推移
※「Full-time and Part-time Employment: A Deeper Look - dshort - Advisor Perspectives」より引用

2009年頃に急激にパートタイムが増えているのはリーマンショックが原因であり、元に戻る傾向であることは出版時点で知り得た情報です。
一貫してほぼ8割以上がフルタイムです。

堤氏のグラフはミスリードのための素材でしかない。

また適当なことを

その後オバマ大統領が、TBTF(※「Too big to fail」のことで「大きすぎてつぶせない」の意味)で今度はGM、クライスラー、フォードの自動車のビッグスリーを救済し、その条件として労働者の賃金カットと勤務時間の無制限化など、ブッシュ前大統領が解体した教職員組合に続く国内巨大労組であった自動車労組の弱体化に尽力した。
これには投資家やピラミッドの上位にいる大企業が各地の州議会議員に根回しをして各州で導入させた〈労働権法〉などとのコンビネーションがよく効いた
また適当なことを自分の勝手な思い込みから書いて。

ビッグ3が危機に陥ったのは2008年。
労働権法の大部分は1940-50年代に制定されていて、2000年以降は以下のみ。

2001/09/25:オクラホマ州
2012/02/01:インディアナ州
2013/03/08:ミシガン州
2015/03/09:ウィスコンシン州
2016/02/12:ウェストバージニア州
2017/01/07:ケンタッキー州
※左派の多い太平洋岸州、北部大西洋岸近辺州は労働権法がありません。

上記の内、2015年以降はこの本の出版後の話なので除外し、2001年は全く関係ないので、インディアナ・ミシガンのことを堤氏は言及しているのでしょう。

自動車の街として有名で破綻したデトロイト市はミシガン州なので、ミシガン州を例に見てみましょう。
アメリカの労働組合加入率
※米国労働統計局「Table 5. Union affiliation of employed wage and salary workers by state」より作図

全体として低下傾向にあり、ミシガン州においても2004年以降は低下傾向にあり2013年を境にそれが加速されたように見えない。
「各州で導入させた〈労働権法〉などとのコンビネーションがよく効いた」というのは、堤氏の勝手な想像ということです。


沈みゆく大国 アメリカ
堤 未果
集英社
2014/11/14

この記事へのコメント

2022年11月24日 18:54
めぐりめぐって300億円が桁的に正しくなっているの笑える
晴川雨読
2022年11月24日 20:43
>めぐりめぐって300億円が桁的に正しくなっているの笑える

何気に気づいていませんでした。
この方、計算もできないのですよ。
10億の0.1%が100らしいですから。