大学ではウソを教えないで下さいね

日本を救う未来の農業」を読みました。

数字が意味するところを理解できないらしい

著者の竹下正哲教授は、日本が農薬大国だ!とおかしなことを書いて、それをごまかそうとして結果、以下のようになっています。

上記とは別件ですが以下のように書いています。
たとえばナスを例にとると1ha当たりの生産量は、オランダが日本の15倍になっている。
単純に比較できない数字でオランダが凄くて日本はダメだと言われてもね。
オランダはハウス栽培、日本は露地栽培が多い。
作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 令和2年産野菜生産出荷統計 年次 2020年」を見てもらうと良くわかります。

ハウス栽培の多い高知は10a当たりの収量は12,400kg、日本平均は3,530kgで、作付面積6位の秋田は1,460kg。
高知は平均の3.5倍、秋田の8.5倍あるのだ。

目立つ数字を持ち出して○○だ~、と言われてもね。

参考までにナスの生産量と単収の順位の表を作ってみました。
ナスの生産量と単収の順位
FAOSTATのデータより作成

生産量10位以内と上記で出てきたオランダとこの本の主題であるイスラエルを登場させました。
9位のスペインはオランダと同様ハウス栽培が盛んな国です。
しかし、オランダの単収の値はキリが良すぎて作為的な気がしてならない。

意味不明

昔ながらの有機農業、あるいは自然栽培などが、本質的には一番正しい農業であり、より人間らしい本来の農業だと私も感じる。AI農業などは邪道だろう。
何をもって「正しい」「人間らしい」とするかによるので、正解はないだろう。
例えば、慣行農業を全て有機農業・自然栽培に移行して、結果として生産性が落ちて世界の何割かが餓死したとして、それは正しく人間らしいのだろうか?
甚だ疑問だ。それにAI農業が邪道だとするのも理解不能。
農業に関する経験を人間であれば長い期間をかけて習得するが、AIの場合は単に短期間で習得して利用するだけで、本質的な違いは無い。

林業

1980年代ぐらいまで、日本は林業王国だった。しかし、その日本の林業は衰退した。1990年代にほぼ滅びてしまったと言っていいだろう。
ふ~ん。
林業産出額の推移
令和3年度 森林・林業白書より引用

滅びた林業が木材生産の5割を賄っているのですね。
面白いこともあるもんだ。

今でも林業職の求人はあるが、平均収入は300万円ほどと言われている。
ふ~ん。滅んだ産業なのに求人はあるんですね。
ちなみに、上記の資料によると2017年で343万円だそうです。

食料自給率

もし戦争とかになって、海外からの輸入がストップするという事態になれば、肥料も農薬も手に入らなくなる。・・・そうなると、1億人を養うのはとても無理だ。この狭い国土で、堆肥だけで養える人口は、恐らく江戸時代の人口が原因だろう。・・・
食料安全保障という視点に立つならば、「いかに食料自給率を高めるべきか(つまり国産の割合をいかに高めるか)」を追求するよりも、「そもそも輸入がストップしないようにするには、どうしたらよいか」を考える方が理にかなっているだろう。
これは、その通りだと思います。
食料自給率が低いのは江戸時代と違い政策が悪いからだ!とアホなことを言う東大教授よりよっぽどこの件に関してはまともです。

ただ、食料自給率に関することで以下を書いていたがどうでしょうね。
ほとんどの人は知らないと思うが、化学肥料や化学農薬の原料は、実は原油と天然ガスだ。
語弊のある書き方ですね。確かに窒素肥料はその表現で良いのだが、リン・カリウムは?と思う。

日本も含めた先進国は、このガット・ウルグライラウンドの時点で、世界に対して約束したのだ。農業に対する関税と補助金をなくしていきますよ、と。
では、その後実際にはどうなっただろうか。
約束は全く守られなかった。先進国は関税を減らすどころか、さらに高くしていった。農業補助金も増え続けた。
まるっきりのデタラメ書くな!
各国の国内保護水準(AMS削減率)
※「平成 20 年度 食料・農業・農村の動向」より引用

期待するものと結果は違ったかもしれないが、少なくとも約束のAMSは減らしているぞ!

完全否定

しかし、この人は話が極端すぎる。「まったく」などの完全否定か完全肯定の言葉が頻出する。
0、100の思考。
20、50、80もあり得て、それでも良いという考え方が乏しいのだろう。

以下は、イスラエルの農業に関して書いている3章の最初の4ページに出てくる記述だ。

・国(※イスラエルのこと)の南部にはまったく雨が降らない
・灌漑なしでは、なに一つ緑が生えてこない
・イスラエルの土はまったく農業に適していない
・栄養分がまったく含まれていない ×2箇所

これらは全て間違いだ。
それは著者自身で証明している。
「植物に必要な栄養素がほとんど含まれていない」とその後に書いており、上記と完全に矛盾する。
このように、完全否定・肯定するする学者は信用ならない。
自然界で、完全に満たす、または満たさないことはほとんどあり得ない。

なお、上記の記述を正しい表現にすると以下だろう。

・国の南部にはほとんど雨が降らない
・灌漑なしでは、農業は成り立たない
・イスラエルの土は農業に適していない
・栄養分がほとんど含まれていない

土の研究者、藤井一至さんに怒られるぞ

温帯である日本の土は、茶色からこげ茶をしている。さらに寒いロシアやウクライナには真っ黒い土がある。・・・つまり日本やロシアの土などは、たいへん素晴らしい土と言って差し支えない。
農学部の教授でこれですか?

日本のこげっ茶っぽいのは「黒ぼく土」で火山灰と混じっているもので、温帯の世界ではレアケース。酸性であるためそのままでは農業に適さない。
片や、ロシア・ウクライナのは「チェルノーゼム」で、寒さと降水量が少ないことで成り立つ中性であり、農業に適した土。

藤井一至さんの著書「土 地球最後のナゾ」を読んで出直して来い!

暑さのために化学反応が早く、有機物(落ち葉やミミズの糞など)はあっという間に分解され
おいおい、大丈夫か?
地表の温度ごときで有機物は勝手に分解されないわ!
腐食動物が分解するのさ。

2章の記述だが、耕作放棄地は焼き畑で元に戻せるというくだりで次のように書いている。
(焼き畑後)20年待っている間に、知力が回復しているのだ。・・・森の木々が毎年秋に大量の葉を落とし、その葉をミミズやササラダニ、トビムシ、バクテリア、糸状菌などのドジョウ生物たちが共同で分解していく。その過程で、土がどんどん豊かになっていく。
本当に理解しているのかな?
葉を分解するだけなら、二酸化炭素・窒素として空気中に放出されるだけでなんら養分は溜まっていかない。
アマゾンの土に養分が少ないことから、それは明らか。
著者の記述では、なんら地力は回復しない。

分解されずに残る有機物(主に窒素)と菌根菌により岩石から取り出されたリン・カリウムが地力を回復させるのだ。
白水貴さんの著書「奇妙な菌類」を読んで出直して来い!

イスラエルのお話

とくにハウスでの栽培は、もはや土を使わない農法が主流となっている。土の代わりに、袋詰めたココピート(ココナッツの殻の繊維)や石綿などを使ったりしている。
悪性中皮腫の原因である石綿をマジに農業で使っているの?
A Brief History of Asbestos Removal」を見ると、2011年に成立したアスベスト法により新たな利用は禁止されたとありますよ。

その他

1970年代と同じ栽培方法をしている日本の農業は、1ha当たりの収穫量は50年前からまったく向上しておらず・・・
ここでも「まったく向上していない」と完全否定していますね。
実際どうなんでしょうか?
単収の推移
※農林水産省の資料より引用

50年前からまったく向上していないね~。胡散臭いね。

雨が多い年であっても、ドリップ灌漑による収量がおよそ130%増加することが証明された。
ふ~ん、ピーマンの収量が2.3倍になったんだ。
では本にあったグラフを見てみましょう。
ピーマンの収穫量比較

あれ?顕著な差が出ていない。
130%増加ではなく、30%増加ですな。
しかし、何だろうこのグラフ。差がわかり難いので数字も載せてもらわないとわからないのだが。

ピーマンの話が出てきたので単収を比較してみましょう。
FAOのデータでは、10a当たりでイスラエルが6,435kg、日本が4,518kg、大分県(夏秋収穫分)(全国3位)が6,130kg。
大分県はこの記事によると、「雨よけ(ハウス)栽培が主流」とのこと。

大分県の農業で単収は十分太刀打ちできるのでは?
コスト削減(農地集約、規模拡大)+日本国内にある良いところを取り入れるということで、それなりにいけるのでは?
どうも、著者は海外の目に見えるよいところと日本の悪いところだけを比較しているのでは?と思えてしまう。
もちろん、内外問わず良いものはどんどん取り入れていけば良いのは言うまでもないが。

日本を救う未来の農業
筑摩書房
2019/9/6

この記事へのコメント