「ゲノム編集ー現実と逸話」

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OKシードプロジェクトという団体が『ゲノム編集ー神話と現実:煙幕の中のガイドブック』を出しています。
これは「GENE EDITING MYTHS AND REALITY」の翻訳版です。

このデタラメっぷりを突っ込んでいきます。
以下タイトルは、このガイドブックにある通りのものです。

1 ゲノム編集は遺伝子工学であり、品種改良ではありません。

ゲノム編集技術は、品種改良技術ではありません。これらは技術的にも法的にも遺伝子操作技術であり、遺伝子操作生物(GMO)を生み出し、2018年の欧州司法裁判所の判決で確認されているように、EU遺伝子操作規制法の範囲に含まれます。
騙しですね。

あなたの疑問に答えます(EUはゲノム編集食品を禁止している、という話は本当ですか?):農林水産技術会議」より引用します。
この案件、実はゲノム編集食品の取扱いについて争っていた裁判ではありません。もともと、フランスの農業者団体がフランス政府の決定を不服として欧州司法裁判所に提訴していたもので、突然変異を利用するさまざまな品種改良について、法律上の整理を求めていました。裁定では、突然変異誘発に由来する生物はすべて遺伝子組換え生物であり、GMO指令の法的義務を負う、と判断されました。ただし、長期にわたり安全に使われているものは、除外する、としました。
 突然変異による品種改良の中には、化学物質、放射線などを用いてゲノムに突然変異を起こさせるものや、ゲノム編集のようにゲノムの狙った部位を変異させるものなど、さまざまあります。裁定は、化学物質や放射線などを用いた従来からの突然変異技術はGMO指令の対象外とする一方、2001年以降に開発された突然変異誘発技術はすべて、遺伝子組換えと同じ規制を受ける、としました。ゲノム編集による品種改良は2001年以降の技術なので、遺伝子組換えと同じ扱いです。
ゲノム編集は2001年以降に開発された突然変異誘発技術なので、法的に遺伝子組換えと同じ扱いをするという判決です。

単に法的扱いを遺伝子組換えと同じとすると言っているだけで、ゲノム編集が遺伝子操作技術と認めたわけではありません。
そのため「法的にも遺伝子操作技術であり」は事実に反します。


遺伝子操作と従来の品種改良はどちらも新しい変種の創出をもたらしますが、この2つは異なる方法であり、互換性はありません。 ゲノム編集は明らかに遺伝子操作技術ですが、従来の品種改良はそうではありません。しかし、農業バイオテクノロジー産業は、それらの境界を曖昧にしようとしているのです。
まるでお話になりませんね。

「互換性はありません」というが、「互換性がある」が何を指すか不明であるため、互換性有無の判断は下せません。
単なるあなたの感想ですね?で終わってしまう。

そもそも「品種改良」が何なのかの定義がこのガイドでされていないのですよ。
だから、「ゲノム編集」が「品種改良」でないと言われても、それはあなたの感想ですよね?で終わりです。

OKシードプロジェクトとは?」に以下が書かれています。
ゲノム編集食品が作られる時代になりました。これは自然な品種改良とは異なる方法で農作物や畜産・水産物の遺伝子が操作されて作られたものです。
ゲノム編集は「自然な品種改良」ではない「人工的な品種改良」ということですよね。
結局「品種改良」であることに変わりない。

化学物質や放射線などを用いた従来からの突然変異技術も「人工的な品種改良」なのですが、EU遺伝子操作規制法の対象ではありません。
自己矛盾のしまくりですね。

「自然な品種改良」というが、自然では起きにくい品種改良も「自然な品種改良」で行われているのですけどね。


2 ゲノム編集は正確ではなく、予測できない遺伝的エラーを引き起こします。

ゲノム編集イネに関するタン(Tang)氏らによる研究は、これらのプロセスが変異させやすい性格を持つことを示しています。
この研究では、組織培養によって多くのオフターゲット変異が生じ、さらにアグロバクテリウムの感染によっても多くの変異(1株あたり約200個)が生じたことがわかりました。
一方、遺伝子操作されていないイネから保存された種子では、1株あたり30~50個の自然発生的な変異が発生しただけでした。したがって、この研究では、全体としてCRISPRによるゲノム編集のプロセスが多数のオフターゲット突然変異を引き起こし、従来の品種改良よりもはるかに多いことがわかりました。
赤字の部分はウソです。

(オフターゲットは、ターゲットでない部分を編集してしまうことです。)

1株あたり約200個というのは、ゲノム編集ではなく、単なる組織培養の結果発生した時の変異数で、オフターゲットは関係ない。
そのため、化学物質や放射線などを用いた従来からある品種改良も組織培養しているので、その点ゲノム編集と何ら変わらない。

この論文(日本語の要約はこちら)では15種中オフターゲットが発生したのは1種のみで、しかも事前に発生するだろう計算されていた場所であったと書かれている。

この「ゲノム編集ー神話と現実」では大事なことが書かれていない(意図的に書いていないのだろうが)ので「あなたの疑問に答えます(オフターゲット変異が起きるから危険、なのですか?):農林水産技術会議」を要約し説明します。

・オフターゲットはランダムでは発生しない
・確率としては、1/(4の20乗) 程度
・イネや大豆、トマトやダイコン、サツマイモ、イチゴなど40種はゲノム解読が済んでいるので、オフターゲットが起こる場所を事前に知ることができる
・ゲノム編集したものをそのまま出荷せず、戻し交配や選抜の工程を経る

危険を煽っているだけの内容です。

3 ゲノム編集は、自然界とは異なる遺伝子変化を引き起こします。

 ゲノム編集によって誘発された変異が、突然変異育種において化学物質または放射線によって誘発されたものと同じではないことを示す証拠があります。たとえば、ある科学的レビューによると、ゲノム編集は、変異から保護されているゲノムの領域に変化をもたらすことがあるといいます。
 言い換えれば、ゲノム編集は、ゲノム全体を変化させることができるということです5
論文の都合の良い部分だけピックアップしていますね。

同じ論文から引用します。
植物育種の主な目的は、特定の形質を変更して収量と品質を向上させることにより、植物を開発および改良することです。従来の植物育種における新品種の開発の基礎は、遺伝的変異です。遺伝的変異は、自発的に出現する突然変異および減数分裂組換えによって自然に発生するか、突然変異誘発によって誘発される可能性があります。DNA 損傷は、ゲノムのどの部分にもランダムに現れる可能性があり、その後突然変異につながります。細胞メカニズムは、DNA 損傷が感知される細胞周期の進行を停止させ、修復メカニズムを活性化してゲノムの異なる領域を保護し、ゲノムの完全性を維持します。場合によっては、ゲノムの特定の部分が他の部分よりも保護されています。・・・現在、CRISPR/Cas9 などの新しいゲノム編集技術により、研究者やブリーダーが必要な変更を行うためにゲノム全体にアクセスできるようになっています。これらの新しい技術は、ヌクレアーゼを特定のゲノム領域に標的化することにより、ゲノムの特定の領域を保護するメカニズムを回避し、それによってゲノム変化の誘導の可能性を高めます
ゲノム編集と他の突然変異育種との違いは、発現確率を高めているだけ。
そのため、「ゲノム編集は、自然界とは異なる遺伝子変化を引き起こします」というのは間違いです。


4 ゲノム編集には危険があり、その産物は安全ではない可能性があります。

1~3にある通り、従来の突然変異育種との違いはないので、この主張に正当な根拠はありません。

5 ゲノム編集された食品は検出可能です。

神話:ゲノム編集された食品は、従来の品種改良で開発された食品と区別できません。
現実:遺伝子変更の情報が得られれば、ゲノム編集によるすべての食品を検出する方法が開発できます。

大爆笑ですね。

「神話」では、前提情報が無い(遺伝子変更の情報が得られない)場合、遺伝子だけ見ても、ゲノム編集と従来の品種改良と区別できないと言っている。
それに対し「現実」では「遺伝子変更の情報が得られれば検出できる」ですって。

アホですね。
遺伝子組み換えだろうがゲノム編集だろうが、遺伝子情報があれば、同定できます。
こんなのに騙される人がいるのかね?

6 遺伝子操作技術は大企業が保有し、支配しています。

何が問題なのでしょうね?
気に入らなければ、その技術を使わなければ良いだけなどが。
何と書いているか見てみましょう。

神話:ゲノム 編 集 、とくにC R I S P Rツールは、公的資金で運営されている研究機関や小規模な企業を含む、何十万人もの科学者の手に遺伝子工学の力をもたらします。
現実:農業用のゲノム編集技術は、すでに種子や農薬の市場を支配している多国籍企業の支配下にあります。コルテバ社は、農業分野におけるCRISPR特許の主要な管理者となっています。

何を言っているのでしょうね?
「神話」と「現実」に書いていることは矛盾しませんが。

ゲノム編集トマトを作ったサナテックシード株式会社の資本金は95 百万円です。
資本金が1億円以下なので中小企業ですね。
神話に書かれている「小規模な企業」です。
ばかばかしい。

7 ゲノム編集は、望ましい結果を得るための迅速かつ確実な品種改良方法ではありません。

植物の新品種の育成には一般的に時間がかかりますが、ゲノム編集された品種の生産の方がより迅速に行われるという証拠はありません。米国やカナダのように規制が緩やかな国でも、ゲノム編集された製品が市場に出回っているのはごくわずかです。2020年に日本政府が届け出を受理したゲノム編集トマトには、血圧を下げる効果があるとされる化合物が含まれていますが、開発には15年を要しました。これは、専門家が推定するところによると、有性生殖を行う作物、または従来の遺伝子操作作物の開発に必要な期間と同じです
これも騙しですね。
ゲノム編集技術 CRISPR/Cas9 が開発されたのは2013年です。
2020年に申請しているので、開発期間は長くても8年でしかない。

あなたの疑問に答えます(ゲノム編集食品はどのように開発されていますか?):農林水産技術会議」に次のように書かれている。
私たちはトマトのGABA合成に関わる遺伝子やその機能の解析などの基礎研究を10年ほど続けてきました。
15年の内、最初の10年はGABAの基礎研究、残り5年で実質開発したということですね。
「従来の遺伝子操作作物の開発に必要な期間」である15年の1/3ということです。

ということで「ゲノム編集は、望ましい結果を得るための迅速かつ確実な品種改良方法ではありません。」はデタラメです。

8 ゲノム編集は、リスクとコストが高く、食や農の問題に対する成功した実績のある解決策から遠ざかってしまいます。

ゲノム編集では、望ましい複合形質を付与できない。害虫や病気に対する耐久性、干ばつ耐性、栄養価の高さ、塩分への耐性などを備えた作物の開発では、従来の品種改良が遺伝子操作作物を上回っています。このような形質は、1つまたは数個の遺伝子を操作するだけでは、極めて困難または不可能であり、ゲノム編集や一般的な遺伝子操作では、たとえ多重処理を用いても実現できません。
「従来の品種改良が遺伝子操作作物を上回っています」とあり、参考文献が4つ示されているが、3つはどこの誰が書いたか分からないもので、1つはNatureの記事(論文ではない)。
Natureの記事を見ると、2010年以降、従来の品種改良で21品種できたが、モンサントのGMは開発に10年以上かかるだろうとある。
比較対象がGM(遺伝子組み換え)であって、ゲノム編集ではないのですよね。
モンサントが開発に10年以上かかるのは、安全性を確認するための時間がかかっているのかもしれない。
ゲノム編集ではその時間が大幅に短縮できる。
比較対象が間違っているので、その言が正しいかははなはだ疑わしい。

ゲノム編集(SDN-1)は、外部から遺伝子移入しないので、干ばつ耐性にかんする遺伝子を持っていなければ、それを発現させることはできない。
ゲノム編集だけで実現できないから、ゲノム編集がダメだと言うのは短絡すぎる。

技術は適材適所で使えばいいのですよ。
従来の品種改良で外部からの遺伝子を移入させて、邪魔になる遺伝子をゲノム編集で除去するなど複合技をすれば良いのだ。
そのようなことは、一切書かれていない。

ゲノム編集によって耐病性を実現しようとする試みは、こうした従来の品種改良の成功例には及ばないでしょう。病気の原因となる微生物は、害虫と同じように遺伝的多様性とそれに基づく適応性を備えているため、1つまたは数個の遺伝子の変化に基づいて抵抗性
を簡単に「破る」ことができるからです。さらに、作物の病気と害虫の両方を制御する鍵は、輪作などの適切な農法による予防にありますが、単作で工業化された農業では無視されがちです。
これも、ゲノム編集だけで実現しようとしたときの話。

輪作などは、ゲノム編集の話ではない。
どんな植物でも連作すると病害虫が大発生する可能性が高まる。


ということで、1~8の全てにツッコみました。
『ゲノム編集ー神話と現実』
ではなく
『ゲノム編集ー現実と逸話』
であることがわかりましたね。

ゲノム編集については、
『ゲノム編集ー神話と現実』
というデタラメなものではなく、
ゲノム編集技術:農林水産技術会議
を読むことをオススメします。


ちなみに『ゲノム編集ー神話と現実』を推薦している人が笑えます。

「河田昌東さん(遺伝子組換え情報室、分子生物学者)」
この方は、トリチウムが濃縮するだの、トリチウムがDNAに取り込まれてβ崩壊するとDNAが壊れる(分子生物学者のくせにDNAの修復機構について全く触れない)と言います。
詳細は「トリチウムの海洋放出は有害か?②(河田昌東 名古屋大学元助手)」。

「天笠啓祐さん(日本消費者連盟顧問、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表)」
タグを見てもらうとどんだけデタラメなことを言う人かがわかると思います。

「久保田裕子さん(OKシードプロジェクト共同代表、日本有機農業研究会理事)」
「中村陽子さん(OKシードプロジェクト共同代表、メダカのがっこう代表)」
この二人+天笠啓祐氏は、農業競争力強化支援法8条4項で、公共の種が民間に払い下げられると言います(事実と異なる)。
詳細はこちら

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