被曝超過大評価と非科学的方法

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被曝評価と科学的方法」を読みました。

この本は、牧野淳一郎神戸大学大学院教授が書いています。
牧野教授の専門は計算天文学で、放射線の専門家ではありません。
ですが、自然科学の教授をしているので変なイデオロギーに侵されていなければマトモなことを書くだろうと普通は思いますがどうでしょうか?

福島の「鼻血」、チェルノブイリ、甲状腺がんのことが書かれているが、後の二つにはまるっきり知見がないので「鼻血」の件だけに触れます。

はじめに次のように書かれていました。
本書で取り上げる事例の多くは、岩波書店の雑誌『科学』における連載「3.11 以降の科学リテラシー」で扱ったものですが、本書執筆時点でまとめ直していて、連載記事そのままではありません。
ふむふむ。デマ雑誌で有名な「岩波科学」の連載がベースなのですね。
期待が持てますね(悪い意味で)。

「美味しんぼ」の記述を確認する

美味しんぼの内容に関する記述部分を引用します。
第1章 過小評価の論理
鼻の被曝について
本章では、まず、「被曝による鼻血」の問題を取り上げます。
2014年の5月に、漫画週刊誌『ビッグコミックスピリッツ』に連載中の「美味しんぼ」において、井戸川元双葉町町長に鼻血の症状がでている他、主人公の山岡を含む数人が福島での取材中に鼻血を出すという描写があり、そんなことはあるはずがないという極めて激しい反応が、環境大臣、環境省、放射線医学総合研究所などから起こりました。まず、時系列にそって、どのような描写があり、どのような反応があったのかをみていきます。
2014年4月28日の回では、福島第一原発の見学から帰ってきた山岡らが鼻血を出すといった描写があり、双葉町元町長の井戸川克隆氏が「私も鼻血が出ます」「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と語っています。
さらに、5月12日発売の号では、やはり井戸川元双葉町町長が「私が思うに、福島に鼻血が出たり、ひどい疲労感で苦しむ人が大勢いるのは、被ばくしたからですよ」と語っています。

ここに書かれていることをまとめましょう。
・井戸川元双葉町町長に鼻血の症状がでている。
 「症状がでている」「私も鼻血が出ます」と現在形で話していて、過去のことをこれからは読み取れない。
・主人公の山岡を含む数人が福島での取材中に鼻血を出した。

このことから、取材時点において井戸川元町長および山岡らが鼻血を出すだけの放射性物質があったとうかがえる(放射性物質が原因だとしたと仮定した場合)。

2014年の5月の雑誌に載ったので、この漫画の著者である雁屋哲氏の取材を元にしているあるのならば、2014年5月以前に福島に行っているはずだ。
では雁屋氏は、いつ福島に行ったのでしょうか?
この本からはわかりませんが、雁屋氏の本『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』(リンク先は私のツッコミ記事)には「2011年11月から2013年5月まで、福島を回ってこの目で見た真実、この耳で聞いた真実から、下した結論です。」とあるので、線量が最も高かっただろう2011年11月(保守的に)をベースに考えるのが妥当ですね。

では、牧野教授の主張を見ていきましょう。

何を関係のないことを言っているの?

井戸川氏は1号機の爆発があった2011年3月12日にはまだ二葉町役場に居ました。・・・2011年3月12日の放射性物質の放出については、核種、量などがあまりわかっていません。
・・・
非常に問題が多い文章であり、これが「放射線と人々の健康に関わる総合的な研究開発に取り組む国内で唯一の研究機関」である放射線医学総合研究所からの情報発信かと思うと頭を抱えたくなりますが、そうもいっていられないので以下に内容をみていきます。・・・事故当時の出すとサンプリングでは主な核種はテルルとヨウ素であり、セシウムではありません。・・・最終的に、3Gy の被曝に「成人の場合で、4.4×107 Bq」という見積もりになります
テルル(Te)とヨウ素(I)の半減期は、Te128(3日)・I131(8日)です。

美味しんぼの著者である雁屋氏が福島に行った2011年11月に I131 がどの位に減っているか計算してみましょう。
事故発生から約200日、「放射性元素の半減期 - 高精度計算サイト」で計算すると、1億分の3に減ります。
より半減期が短い Te128 もっと減っていることになります。
カスですね。

ということで、放射線医学総合研究所がセシウムを相手にしているのは正しく、雁屋氏らがテルル・ヨウ素が原因で鼻血を出すことは科学的に考えられません。

牧野教授の主張と関係無いこと

美味しんぼのケースにおいて、テルル・ヨウ素が原因で鼻血を出すことは科学的に考えられないと先ほど結論がでました。
ですが、以下の2つを疑問に思う方がいると思います。
事故発生直後にテルル・ヨウ素が原因で鼻血はでるか
セシウムが原因で鼻血はでるか

ですが、牧野教授の言う 3Gy が正しいと仮定してみましょう。
ICRU Report56 "放射線防護のための外部べ一タ線のドジメトリー" の解説」で皮膚(鼻の粘膜ではないので、実際はこれよりも少し低い線量で影響がでると思われる)の影響がまとめられています。
「12Gy以上の急性の被曝後に, 表皮の基底細胞の死と真皮上部内の血管の損傷により生じる。」
とあります。
12Gy以上で血管に損傷が生じるらしいが、血が外部に出る(鼻血となる)とは限らないということですね。

このことから、事故発生直後にテルル・ヨウ素が原因で鼻血がでるとは科学的に考えられない。

ですが、鼻の粘膜にセシウムが吸着したことにより鼻血が出るという医師(郷地秀夫医師)がいました。
こちらにまとめていますが、被曝を超過大評価していて、現実的には鼻血が出るとは考えられないという結論です。


そもそものお話「ひどい疲労感で苦しむ人が大勢いる」と言っている時点で、鼻の局所被曝の話ではないのですよね。
この時点でゴミ箱直行の話なのです。

この本に関すること

面白いのを2つ見つけたので紹介します。
鼻腔の被曝について - Togetter
牧野教授と大阪大学の菊池教授が登場します。
要約すると以下となります。

牧野教授:1 Sv になり得る
菊池教授:1 Sv では鼻血は出ない、出るというのならばその根拠もってこい
牧野教授:・・・

この場合の鼻血は、短期局所外部被曝の確定的影響なのだから、動物実験は簡単にできます。
過去実験の積み重ねで、1 Sv では鼻血が出ないと科学的にわかっているのです。

終了!


もう一つは、理論社会学者様の発言です。
理論社会学者:それであんた『被曝評価と科学的方法』は読んだのかと聞いている
理論社会学者:自然科学についてちゃんと勉強してるから自称自然科学者のごまかしが分かるだけだよ〜

自然科学をしっかり学んだと自称する理論社会学者が『被曝評価と科学的方法』を鼻血の根拠にして、東大宇宙物理学助教に説教を垂れています。
今までのものを見てもらえば、この発言の妥当性はわかりますよね。

終了!

被曝評価と科学的方法
牧野淳一郎
岩波書店
2015/3/25

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