食を壊したい!⑤ マジで科学リテラシーないね

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ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?」(堤未果)を読みました。

過去記事はタグを参照のこと。
『第4章 気候変動の語られない犯人』にツッコみます。

北アイルランド

北アイルランドでは「気候変動対策法」が議会を通過。羊や鶏と共に50万頭の牛を減らす方針が決定した。
校正をしましょうよ。
「羊や鶏と共に50万頭の牛」って何を指すかが分からない。

・羊、鶏、牛のそれぞれ50万頭
・頭数は不明の羊、鶏と50万頭の牛
のどちらでしょうか?

前者だとしたら「羊、鶏、牛の各50万頭」と書けばよい。

「減らす方針決定した」もおかしいです。
「減らす方針決定した」ですよね。

以上が校正の指摘になりますが、これから校閲しましょう。
「方針が決定した」と書くが、英紙ガーディアンの記事「Northern Ireland faces loss of 1 million sheep and cattle to meet climate targets | Environment」によると、方針を決定したわけではない。

・KPMGコンサルティングの分析で、50万頭以上の牛、70万頭以上の羊の削減が必要
・英国政府の気候アドバイザーによる別の分析で、500万頭の削減が必要

と書かれており、方針を決定したわけではない。

誤:羊や鶏と共に50万頭の牛を減らす方針が決定した。
正:70万頭以上の羊や500万頭の鶏と共に50万頭以上の牛を減らす必要があるという分析結果が出された

放牧密度を上げろ!

悪いのは牛そのものではなく、育てる手法の方なのだ。
その証拠に、育て方を変えた人々が、驚くべき結果を生み出している。
・・・
この〈輪換放牧〉によって、牛たちは移動しながら休みなく草を食べ続け、胃の中で発酵させた排泄物を栄養価の高い肥料として、また土の上に落としてゆく。
放牧密度が高いほど、地面に牛の体重が均等にかかり、たくさんの蹄に集中的に踏まれ地中深くに押し込まれた草のタネは、たっぷり酸素を取り込んでふかふかになった土の中で勢いよく根を出し成長する。
こうして常に放牧されている牧草地は、生物多様性に富んだ循環型ポンプとなって、炭素を繰り返し土の中に戻して再生させ、肥沃度を高めてくれるのだ。
土壌に詳しいワシントン大学地球・宇宙科学部教授のデイヴィッド・モントゴメリ博士に、この手法について尋ねたところ、アフリカでバッファローの群れが草原を造ったメカニズムと同じだと説明された時の衝撃は今でも忘れられない。
バッファローの大群が草原を走り抜けていったあと、一気に食べられた草はできるだけ速く再成長しようと、急いで根っこと地中の有機物に大量のエネルギーを注入する。その結果、土は肥沃になり、牧草の質がどんどん上がるというのだ。
牛を自由に放しておく通常の慣行放牧と比べ、高密度で場所を移動させ続ける輪換放牧をしている牧草地は土の栄養分や有機物の含有量が高く、菌根菌がたっぷり入っていることが報告されている。
これ本当かな?
ぱっと見て思うこと。
・放牧密度が高いと、土が固くなって、「たっぷり酸素を取り込んでふかふか」にはならないのでは?
・「地中深くに押し込まれた草のタネは・・・土の中で勢いよく根を出し成長する」とあるが、植物ごとに適切な深さがあると思うが。
 温度・日光・湿度などの発芽条件が変わるし、小さな種の場合地上に目が出るまでに養分を使い果たしてしまうものもあるだろう。

土壌圧縮と牧草の収量に関する論文を見てみました。
Pasture yield and soil physical property responses to soil compaction from treading and grazing — a review全文PDF)」
結論の一部を和訳し引用します。
このレビューでは、土壌のパギングと植物へのダメージが最小限の場合、放牧動物の踏圧が土壌物理的特性と牧草収量の関係に与える影響に関する情報がほとんどないことが示された。
とのことです。

デイヴィッド・モントゴメリ博士の記事を見ると面白ことが書いてありました。
革新的な牧場経営者も同様に、土壌をより良い状態に保つ方法を教えてくれました。牧場の牛は、バッファローがかつて行っていた方法で放牧し、短い期間、狭い場所に集中し、その後長い回復期間が続きました。
高密度で放牧するので、牧草の回復期間が長く必要であることは当たり前ですね。
では、低密度と高密度をミクロな視点ではなく、マクロで比較した場合にはどうなるのでしょうね?
そのことは全く語られていない。

そもそも、全てを置き換えるだけの放牧地が存在するのですかね?

牛たちのゲップや糞尿が出す炭素は、草地を移動する彼らのおかげで肥沃になった土壌の中にしっかりと固定され、大気中に排出されなくなるからだ。
面白ことを仰ります。
牛の口から大気中に放出されるメタン(空気より軽い)は、その牧草地でどうやって固定化されるのですかね?

密集した環境で感染症が蔓延するのを防ぐために使用される抗生物質の量も増え、50年代には年間230トンだったのが、2005年にはその80倍の18000トンが餌に混ぜられるようになる。
最初はアメリカなど一部の国で使われていたのでしょうが、今は中国・インドなどにも広がっているので、総量を比較しても工業的に育てられたかはわからない。
比較するのならば、1頭当たりに対する使用量などでしょう。
家畜への抗生物質の使用量の推移
※「Global Trends in Animal Antibiotic Use - HealthforAnimals」より引用

期間は違うが、家畜の重量当たりの使用量は減っているのです。
意味ある比較をしましょうね。
探したついでに見つかった論文を紹介しておきます。
Global Trends in Antimicrobial Use in Food Animals from 2017 to 2030
Global trends in antimicrobial use in food animals

イギリスでは前述のように牛の吐くメタンガスを二酸化炭素と水蒸気に分離する、鼻輪型端末「ZELP」まで開発された。
CH4(メタン) からどうやったら、CO2(二酸化炭素)と H2O(水) に分離できるのでしょうか?

メタンガスからはメタンガスしか分離できませんが・・・
途中に化学反応をかました広義の「分離」だとしても、C(グラファイト、ダイヤモンド、フラーレンなど) と H2(水素) ぐらいしか分離できませんよ。

物を知らないとこんなアホなことを書くのですね。

誤った表現:メタンガスを二酸化炭素と水蒸気に分離する
正しい表現:メタンガスを空気中の酸素を使って二酸化炭素と水に分解する

CH4(メタン) + 2O2(酸素) → CO2(二酸化炭素) + 2H2O(水)

かつてカナダのゲルフ大学の研究チームが「環境にやさしいうんちをする豚」を開発したというニュースが話題になったことを思い出す。豚のうんちが含むリンが、土の中で濃縮され地下にしみこんで川や湖を汚すからと、リンの量を減らすよう遺伝子を組み換える研究だ。
うんち(糞)の事しか書いていないが、尿への排出も減らしますよね?
遺伝子組み換えブタ、海の生物を救う? | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
リンという元素が無くなるわけではないので、尿への排出も減るのだろうと思ったがやはりその通りだった。

「豚のうんちが含むリンが」ってちゃんと校正しようよ。
「豚のうんちに含まれるリンが」が適切ですよね。
「が」を連続で使うな!

しかし「土の中で濃縮され地下にしみこんで」は何を言っているのでしょうね。
何をどうやったら、リンが土の中で濃縮されるのですか?

環境にやさしい豚を本気で育てたいのならば、リンを含む穀物の代わりに牧草を加えれば、環境にやさしいだけでなく豚の健康にも良いではないか、と。
穀物にはリンが含まれ、牧草には含まれないと読み取れますね。
当たり前ですが、牧草にもリンは含まれます。
馬の資料室(日高育成牧場): 栄養」を見てもらえれば明らかです。
そもそも、緑肥は何のためにやるのか?っていう話にもなる。
緑肥の効果については「緑肥利用マニュアル -土づくりと減肥を目指して- | 農研機構」の「第2章 土づくり・減肥に役立つ緑肥の効果」を参照ください。

誤った表現:リンを含む穀物の代わりに牧草を加えれば
正しい表現:リンを多く含む穀物の代わりに牧草を加えれば

こうした〈大量・大量・大量〉のオンパレードは、当然大規模な環境破壊を引き起こす上に、牛たちがいなくなったことで、腐敗した有機物が土の中で分解されずそのまま酸化し、大気中に温暖効果ガスを発生させてしまう。
牛がいたら、酸化せず、二酸化炭素も発生させないように読めますね。
著者がメカニズムを一切理解していないので、科学的にどんな現象のことを指しているかさっぱりわからない。

そもそも「腐敗」は有機物分解プロセスの一部です。

「分解されずそのまま酸化」ってどういう状態のことを言うのでしょうか?
泥炭地のように「分解されずそのまま蓄積」ならわかる。
熱帯雨林などは牛などいなくても、高温高湿のため、微生物に分解されて腐植が蓄積しない。

牛がいようが、いまいが分解・酸化し最終的には温暖効果ガスたる二酸化炭素になるのだが、まるで意味がわからない。

フィリピンはコメ輸出国?

1960年には、フィリピンに〈国際イネ研究所〉が設立された。高収量の新品種米によって、コメの国内自給を達成したフィリピンは他国にまで輸出できるようになり、1963年にはメキシコもフィリピンに習って、〈国際トウモロコシ・小麦品種改良センター〉を立ち上げた。

なんだかなぁ~。
フィリピンのコメ貿易量
FAOSTATのデータを元に作図

フィリピンってコメの純輸入国じゃなかったけ?と調べると案の定そうだ。
今はそうだが、1960年頃は輸出国になったと言いたいのだろうが、無理があるよね。
1960年にフィリピンに研究所ができて、その成果をもって1963年にメキシコにも作ったというのならば、1961年・1962年に即効性の影響が出ていないとおかしいですね。
1961年は輸入超過、1962年は輸出37トン、輸入2トンとミクロな輸出超過だが、このことを言っているの?
効果が出ていると言えそうなのは、70年代後半から80年代前半ですよね。
そうだとすると、1963年のメキシコの件は時系列的におかしい。

フィリピンでも菌根菌の消滅で植物の根っこが脆弱になり、害虫被害が発生しコメの自給率が急落、結局また輸入しなければならならなければならない羽目になった。
マジでデマ屋さんは、死滅・消滅などの言葉が好きですね。
前回も「水生生物が死滅」という言葉を使っていました。
土壌微生物が死滅するくらいだったら、全ての生物が住めなくなるわ。ぼけ!

フィリピンのコメの収量と単収
FAOSTATのデータを元に作図

上記のグラフを見てもらえば分かるが、基本的に単収・収量ともに右肩上がりです。
これでコメの自給率が急落したとするならば、原因は「菌根菌の消滅」ではなく人口増でしょうね。
世界銀行のグラフを見ると見事な直線で人口が増えています。

デマ学者と似たようなことを書くね

さらに新品種の穀物のタネは再生能力が取り除かれていたために、農家は農薬や肥料の他に、タネも特許を持つアメリカの巨大企業から毎年買わなければならない。
こうして世界各地で植物と土の共生関係が消滅してゆき、FAOは、すでに世界の土壌の3分の1が劣化し、今のままではあと半世紀超のうちに、地球上の土は全て使えなくなってしまうだろうと警鐘を鳴らしている。
「新品種の穀物のタネは再生能力が取り除かれていた」とは盛大なデマを流しますね。
F1品種から種取りした場合は親と同じ形質とならないだけで、とれた種から栽培できる。
そのため、F1品種のことではないでしょう。
再生能力というのだから、子供ができないターミネーター種子のことでしょうが、その研究はストップされ出荷されていないはずです。
このデマ屋は何を言っているのでしょうか。

「半世紀超のうちに、地球上の土は全て使えなくなってしまう」ねぇ。
デマ東大教授と同じようなことを書いていますね(デマ教授は、土壌の3分の1が「劣化」でなく「喪失」と、より激しいデマを流していたが)。
FAOの資料に書かれていたのは「2050年までに失われる生産量の合計は10%に上ると見込まれる。」であって、「全て使えなくなってしまう」などではない。

不耕起栽培

不耕起栽培は、土地を耕さないことで土壌を守り、大気中の二酸化炭素を土の中に戻し、肥料の使用量を減らし、生物多様性を回復させることで収量を増やす、持続可能な農法だ。
「大気中の二酸化炭素を土の中に戻し」と説明するということは、よく理解していなのでしょうね。

光合成により二酸化炭素が固定化されるが、耕起によって土中の有機物が表に出てきて分解されることで元に戻ってしまう。
この空気中に戻っていく量を減らそうという話なので、「大気中の二酸化炭素を土の中に戻し」は適切ではない。
ちなみに、日本では二酸化炭素よりもメタンの効果の方が高い。
以下参考のこと。
LCA手法による水稲不耕起移植栽培の温室効果ガス排出削減効果の評価
不耕起乾田水稲直播栽培による温室効果ガス低減効果

ちなみに、ツイッターでフォローしている土の専門家である藤井一至さんの「土壌という複雑系」によると、どこにおいてでも不耕起が良いというわけではないらしい。

ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?
堤未果
文藝春秋
2022/12/16

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