フクシマ 土壌汚染の10年

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フクシマ 土壌汚染の10年 - 放射性セシウムはどこへ行ったのか」(中西友子)を読みました。

放射線・放射能関連は最近デマ本ばかり読んでいたので、こんなまともな本だとストレスなく読めて良いわ~。

セシウムについての本書のまとめ

・葉、鳥の羽、土壌などに吸着するとほとんどそこから離れず、時間とともにその結合は強固となる。
 その状態は”接着剤のついた花粉”とたとえられる。
 付着したものを湯と硝酸で洗っても5%も取り除けなかった。

・土壌中のセシウムはほとんど5cmまでの間にある。最初のうちは下方への移動速度は速かったが、その後は年間2mm程度。

・土に含まれる鉱物の種類によってセシウムの固定させる力が違う。福島県に多い風化黒雲母は吸着したときにセシウムを離さない。
 風化黒雲母の場合は酸で処理してもほとんど溶脱しない。

・チェルノブイリの場合はイオン状セシウム(溶存態)が多く、福島の場合は懸濁態のものが多い。
 そのため、福島の場合は水をフィルターすれば多くが取り除ける。
 溶存態は水で流されやすく動植物に吸収されやすい。

・溶存態は少ないので、通常の雨では流れ出されず、大雨の時に流出するが、河口など流れが少ない場所で底に溜まる

・事故直後に野菜のセシウムが多かったのは付着したもの。除染した後にもたまに多いのが見つかるのは除染していない森などから風で巻き上げられて飛んできたもの。

・種子の種類によってセシウムの分布がことなる。大豆の場合は全体に均一にあるが、米の場合は種皮と胚芽に遍在する。
 白米にすると半分、洗浄するとそのまた半分にセシウムは減る。

・カリウムと似た性質のため、カリウム肥料を多くすると植物への吸収を抑えられる。
 ただし牧草の場合は牛に害となるのでこの方法は使えない。牧草の種類で吸収する量がかなり違う。
 日本の米の場合は品種による吸収の差はあまりない。

・茶の場合は、付着が原因。2011年の一番茶は250Bq/kg、二番茶は50Bq/kgと減っていき2014年には検出限界地未満となった。
 葉に強固に吸着しているので溶け出すのは2%程度。

・生物学的半減期が短く(体に取り込んだものはすぐに排出される)、また生物濃縮もされない。
 落葉に吸着するのでそれを食べるミミズは線量が高いがそれを食べるトカゲの線量と変わらない。

・セシウムとは関係ないが、林業産出額の半分は栽培キノコ類が半分とのこと。
 山を全部除染することはできないし、カリウムをまくのも現実的ではないので難しいですね。

農地の除染

2013年に農林水産省が公表した「農地除染対策の技術書」の話が書かれている。
技術書の簡単にまとめた「農地除染対策の技術書概要」には写真が載っているので、パッと見る分はこっちのほうが良いですね。

①表土削り取り(表土を3cm削り取る)、②水による土壌撹拌・除去(水を入れてかき混ぜ、その水とセシウムを一緒に排出)、③反転耕(表面の土と深いところの土を入れ替える)の3つが紹介されている。

除染工法の特徴と課題(農地除染対策の技術書概要)
※上記の「農地除染対策の技術書概要」から引用

この本では、②について詳細に書かれている。
・土壌に吸着した80%を除去できる
・水田脇に溝を作って水を排出する。放置すると水だけが地中に染み込みセシウムが残る
・溝に50cm土をかぶせる

また、農地の除染について農家の声を紹介している。
あるシンポジウムで、除染作業として表土を剥ぎ取る処分の費用が紹介されたとき、ある農業者がこう発言した。「これは除染をする側の試算だ」「農業の資本である土壌、特に土壌の表層を失うことは、農業という生産現場そのものを廃棄するに等しいのではないか」「農家としては、表土を剥ぎ取るよりも天地返しや混合する方を選びたい」。土壌を守りたいという、当事者からの切実な訴えに、会場は静まり返った。
大変な労力をかけた資源であり、全ての基盤となる役割を果たしている土壌を、汚染されたからといって単に集めて捨てるという解決策には、本来慎重であるべきだろう。
②③を選択したいという話ですね。

フクシマ 土壌汚染の10年 - 放射性セシウムはどこへ行ったのか
中西友子
NHK出版
2021/4/26

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