レイト・レッスンズ―14の事例から学ぶ予防原則

レイト・レッスンズ―14の事例から学ぶ予防原則」(監訳:松崎早苗、訳:水野玲子・安間武・山室真澄)を読みました。

水野玲子氏、山室真澄氏の名前があり図書館で借りたのですが、翻訳者なので、さすがに変なことは書いていないだろうと思いました。

これは、欧州環境庁の「Late lessons from early warnings: the precautionary principle 1896–2000」を訳したものです。
原文は上記のリンクから全て見られます。

予防原則とは何か

「予防原則(precautionary principle)」というのはよく聞くが、その定義が何なのかをちゃんと聞いたことはない。
欧州環境庁の出したこれならばちゃんとその定義が書かれているに違いない!とまずそこを見てみました。
すると、ちゃんと定義していないのですよ!ありえない。
翻訳した本のものをそのまま転記するのはまずいので、原文を機械翻訳したものを載せます。
1.2. 予防原則とは何か?
 アルバート・シュバイツァー(1875-1965)は、「人間は予見し、未然に防ぐ能力を失った...彼は最終的には地球を破壊するだろう」と述べたとき、悲観的だったかもしれません。しかし、手遅れになる前に賢明になることは容易ではありません。環境や健康への影響が遠い将来に及ぶ可能性があり、それらを回避するための実際のコスト、または認識されているコストが即時的に大きくなる場合にはなおさらです。災害を未然に防ぐには、通常、被害の強力な証拠が見つかる前に行動する必要があり、特に被害が遅れて取り返しがつかない可能性がある場合には、現在予防原則と呼ばれるものの一部である科学的証拠と政策決定へのアプローチが必要です。

 予防的予防は、医学や公衆衛生学においてしばしば用いられてきた。そこでは通常、診断について疑わしきは患者に有利とされる(「転ばぬ先の杖」)。しかし、予防原則とその環境ハザードやその不確実性への適用が、環境科学の中で明確で首尾一貫した概念として登場し始めたのは、ドイツの科学者や政策立案者が「森林死」(Waldsterben)と、大気汚染を含むその可能性のある原因に対処しようとしていた1970年代のことである。

 彼らが開発した予防原則の主な要素は、健康や環境にとって深刻または不可逆的な脅威となりうる状況において、行動と不作為のコストと便益を考慮し、危害の確証が得られる前に潜在的な危害を低減するために行動する必要がある場合に用いられる、公共政策の一般的な行動ルールである。しかし、予防的アプローチには、危険を減らすための行動を正当化するために必要な証明のレベル(行動の「きっかけ」)を確立すること以上のものが必要である。1974年に制定されたドイツの大気浄化法におけるVorsorgeprinzip(「予見」または「予防」原則)は、1985年の大気浄化法に関する報告書(Boehmer-Christiansen, 1994)で詳しく説明されているが、その中には次のような要素も含まれている:

・危険の早期発見のための研究とモニタリング
・一般的な環境負荷の低減
・クリーン生産」と技術革新の促進
・ハザードを防止するための措置のコストが、予想される便益に不釣り合いであってはならないという比例原則
・環境、競争力、雇用の改善を目的とした統合的な政策措置を通じて、共通の問題を解決するための利害関係者間の協力的アプローチ
・影響が深刻または不可逆的である可能性がある場合、危害の完全な「証拠」が得られる前にリスクを低減するための行動

 1970年代以降、予防原則は政治的アジェンダとして急速に台頭し、多くの国際協定に盛り込まれるようになった。特に海洋環境においては、汚染に関する豊富な生態学的データがほとんど理解されていなかったが、多くの懸念があった。これが予防原則につながった」(Marine Pollution Bulletin, 1997)。より一般的には、1992年の「環境と開発に関する国連リオ宣言」の第15原則(表1.2参照)が、この考え方を環境全体に拡大した。

 これらの条約や協定では、「予防原則」、「予防的アプローチ」、「予防措置」といった異なる用語が使用されているため、科学的な不確実性や潜在的な危険性にどのように対処するのが最善かについて、意思疎通や対話が困難になる可能性がある。本報告書の結論の章では、こうした曖昧さのいくつかを明らかにしようと試みている。

 ヨーロッパでは、予防原則に対する最も大きな支持は、2000年に欧州委員会が発表した「予防原則に関するコミュニケーション」(European Commission, 2000)と閣僚理事会の「ニース決定」(Council of Ministers Nice Decision)から得られている。これらは、特に利害関係者の関与と貿易紛争の回避に関して、予防原則の実践に大きく貢献している。事例研究と欧州委員会のコミュニケーションによって提起された主要な問題のいくつかは、結論の章で詳しく説明する。

これを読んだ人は、何だこの文章は?って思いますよね。
機械翻訳が悪いわけではなく、人が訳したものを読んでも同じです。
「予防原則とは何か?」というタイトルなのだが、予防原則の説明になっていない。
広義はこう、狭義はこうという説明を期待していたのだが、お話になりません。

「14の事例から学ぶ予防原則」とあるが、「予防原則」の定義もまともにされていないのだから、読むに値しない。
今後「予防原則」という言葉が出てきたら、無視するに限りますね。

BSE

予防原則の定義がちゃんとされていない時点で読む気が失せたのですが、本章を一つぐらいは読んでみるかと、一番取っつきやすそうな15章のBSEを読んでみました。

牛骨粉が原因であることを今はわかっているが、当時は汚染された飼料に原因があるだろうと推測されたが、羊・牛・その他の動物の何が原因かわからなかった。
わからなかったが、最初の措置として、汚染の可能性のある反芻動物(牛・羊・馬など)のタンパク質飼料を反芻動物に与えることを禁止した。
反芻動物に限定したことでBSEを長引かせたと批判をしています。

後知恵だから好きなように書けるねぇって感想です。

リスクを語る資格のないことがよくわかる箇所を引用します。
牛肉はまったく安全だと断言したことが人々を惑わせただけでなく、MAFFが選択できる他の予防的手段の範囲をますます狭くした。どのような新たな法的措置も、それがどのように有用で安上がりであろうとも、政府の安全表明に疑問が提起される恐れがあるばかりでなく、もっと金のかかる規制強化を導入しない論理について重大な疑義を引き起こすかもしれなかった(ゼロ・リスクは、英国中の牛を殺し、新たに入れ替え、飼料連鎖を一掃する以外に決して達成することはできない)。
基本的にリスクをゼロにはできない。
書いてある内容もゼロ・リスクにはならない。
「英国中の牛を殺し、新たに入れ替え」というが、アメリカでもBSEが発生しているので、海外から新たに導入する牛が汚染されているリスクはゼロではない。
こんな簡単なこともわからず「ゼロ・リスク」を語るとは、お笑いものです。

仮に、書かれている政策を実施したとしても「ゼロ・リスク」ではないし、別のリスクが発生する。
BSE以外の伝染病を持ち込むかもしれないし、英国の遺伝的資源が減ることによるリスク、殺処分したものを埋めたところから別の病気が発生するかもしれない。

欧州環境庁に限らず、EUではこういう人達が巣食っているのでしょうね。

レイト・レッスンズ―14の事例から学ぶ予防原則
松崎早苗、水野玲子・安間武・山室真澄
七つ森書館
2005/9/1

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