ALPS水・海洋排水の12のウソのウソ③ 現実世界を見よう

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ALPS水・海洋排水の12のウソ」(烏賀陽弘道)のツッコミ3回目です。

今回は2章の「海洋排水しか方法はない」にツッコみます。

2 「海洋排水しか方法はない」

トリチウムは何に含まれるのですかね?

海に捨てなくても「ALPS水」を陸上で処理し、保管する方法は、少なくとも二つありました。
ひとつは「自然蒸発」。これはアメリカのスリーマイル島(Three Mile Island以下、TMI)原発事故で出た汚染水の処理で、実際に行われた方法です。
この章ではトリチウムがどういう状態で「ALPS水」に含まれているかわからないように書いています。

赤字の部分は「虚偽」です。
「自然蒸発」は、トリチウムが大気中に放出されるので「保管」はしていません。

騙そうとしているのは次の記述でもわかります。
1979年に起こったTMI原発事故では、9千トンの汚染水を「自然蒸発」させました(ボイラーも併用)。この方法では、まず水を蒸発させます。そうすると、底に放射性物質のヘドロが溜まるんですよ。
あたかも放射性物質は底にしか残っていないように読み取れますが、水の方にトリチウムがあって放出されるが、知らないと騙されます。

スリーマイル島と同じようにやったら何年かかるかな?

「いやいや、福島第一原発では、もっと大量の汚染水が出るから、自然蒸発なんて悠長なことはできないんだ」という反論があります。しかし、そんなことはない。
だって、福島第一原発事故の発生から12年経っているんです。その間に乾燥させられるものは乾燥させておけばよかったんですよ。今になってタンクがいっぱいになったと言っているのは、その方法があることを忘れていた、あるいは開始が遅れたということですよね。自然蒸発を始めておけば、少しでも体積を減らせるということをやらなかった。
これも騙しでなので「虚偽」ですね。
著者はTMIにも行ったらしいので知らないはずがない。

トリチウム水タスクフォース(第6回)」にある「TMI-2 Tritiated Water Experience」を見るとわかります。
TMIで蒸発し始めたのは事故の10年後で、8706トンを処理し終えたのはさらに2年8か月後です。
福島第一原発のタンクに溜まっているのは130万トン。

130万トン÷8706トン÷32月(2年8カ月)÷12月/年 ≒ 400年

単純な計算ですが、TMIと同じようにやったら400年かかるってことです。12年なんて誤差の範囲です。

そもそも、後の方で住民の理解を得ていないと文句を言っているが、理解を得ないで事故直後から蒸散させてもよかったのですか?
やったら文句を言っていたくせに。

都合が悪いことは無視ですか?

ちなみに、原発の監督官庁である経済産業省が原子力工学者のタスクフォースをつくって、汚染水の処理を検討し始めたのは、事故発生から2年9か月後の2013年12月です。3年近く、何もしていない。
トリチウム水タスクフォース(第1回)」の開催が2013年12月25日なので、それが検討の最初だと思っているようですが「誤り」です。
いつ検討を開始したかはわかりませんが「汚染水処理対策委員会(第1回)」は2013年4月26日に開催されており、ここでも検討しています。
2013年12月は単に「トリチウム水タスクフォース」の初回会合だというだけです。

ゆるされているんだな、これが

このサスケハナ川に汚染水を流したらどうでしょうか。つまり、こんにち日本政府がやっているような海洋排水にあたる、河川排水というのが検討されました。しかしそれは許されなかった。
これも「虚偽」ですね。

トリチウム水タスクフォース(第6回)の「議事録」から引用します。
どれぐらいの影響があるか、その範囲を示したものです。9つのうち8つの選択肢全部を見て、一番低い影響から高い影響までの幅を示したものです。NRCの結論は何だったか。NRCは、この選択肢を使えというふうには言いませんでした。各選択肢を検討して、どれが安全かという判断を示しました。そして、全ての選択肢が十分に安全だと判断しました。
NRCはアメリカ合衆国原子力規制委員会のことで、日本の原子力規制庁のようなところですが、そこが川に流す・蒸発させるなど8つの方法のどれでもOKと許可しています。
その中から、事業者が一番やりやすい(社会的な問題、コストを勘案した結果)方法である蒸発を選んでいます。
「許されなかった」ではなく「許されたが採用しなかった」です。

それは原子炉の話ですよ

原子力発電所事故の際の防護の鉄則は、①核分裂反応を「止める」②核燃料を「冷やす」③放射性物質を「閉じ込める」です。
ALPS水の海洋排水は、明白に③に反しています。TMIではそれを守った。福島第一原発事故は守らなかった。
ALPS処理水は、再処理施設で行うことと同じなので「原子力発電所事故の際」の話は適用されません。
そもそも、上記の三原則は原子炉に適用される話です(「安全機能|原子力基本用語集|国立研究開発法人日本原子力研究開発機構」参照)。
そのため、これは「誤り」です。

そして、「TMIではそれを守った」というが、トリチウム水を蒸散させているので、福島第一原発と同様に放射性物質を閉じ込めていません。
問題の無いものは普通の原発も含め放出していますし、著者もそのことを後で書いています。
そのため、「虚偽」です。

混ぜるな危険

実は、福島第一原発事故後の政策で、日本政府はこの「閉じ込める」原則に反する政策を、すでにいくつか実行しています。原発直近の高濃度の汚染地帯を、道路だけ・線路だけ除染して、国道6号やJR常磐線を開通させ、車両や列車を自由に往来させています。現実にこの選択は、放射性物質を拡散させています(エビデンスは拙著『福島第一原発事故10年の現実』参照)。ALPS水排水は、その「ルール違反」のダメ押しのような形になりました。汚染を国際問題化したぶん、国道やJRより悪手であることは言を俟ちません。
デマ屋の特徴として、関係ないものを混ぜて話します。
先に①②③と書いていた(①核分裂反応を「止める」など)は、原子力サイトにおける話です。
サイト外の放射性物質を「冷やす」って何のために?ってなりますわ。もう冷えていますわ。
それを勝手にサイト外の国道・鉄道に広げて問題視しています。
そのため「ミスリード」ですね。

パラレルワールドにおける原則ですか?

そもそも、TMI原発事故の例でもわかるように、こういう原発事故の汚染物質は、陸上で処理するのが原則なんです。
高放射線量のものは陸上保管ですが、低レベルのものは放出が「原則」です。
デタラメを言うな!低レベルだからトリチウム水だって蒸散させられるのだよ。
虚偽」ですね。

歴史も弱いのですね

なにせ人類の歴史の中で原発事故は3回しか起こっていません。
原発事故が4回以上発生していたことを知らないはずがない。
もし知らなかったならば、モグリ中のモグリ。
List of civilian nuclear accidents - Wikipedia」を見ただけで沢山出てきます。
これも「虚偽」ですね。

当たり前のように再処理施設は無視

つまり、今回の福島第一原発からのALPS水の海洋排水は「人類初の試み」です。
噓八百です。再処理施設から排出されていることは色々な人から指摘されて知らないはずがない。
これも「虚偽」ですね。

どこに目がついているのかね?

福島第一原発から10キロメートルほど南に富岡町という町があります。そこに「(特定廃棄物埋立情報館)リプルンふくしま」という大変かわいらしい名前の施設があります。
そこは毎日、展示館で係員の方が懇切丁寧にコンクリート固化について解説してくれます。なんと、その固形化した廃棄物の埋め立て現場までガイドしてくれる。私も行きました。そしたらもう、なんのことはない。1立方メートルのコンクリートの塊に固めた、放射性廃棄物を毎日せっせと作って埋めている。本当ですよ。
それを埋めていくんですよね。それによって放射性廃棄物を保管しているんです。ここは最終処分場ですので、もうそこから動きません。そんな方法があるんですよ。
他ならぬ福島第一原発事故の処理で、すでにコンクリート固化のプラントを稼働して埋め立てをやっているんです。
なのに、なぜ、日本政府は汚染水処理にこの方法を採らなかったのか。
これはまったく謎です。ほんとうに不思議です。
「私も行きました」と言っておきながら、デタラメな説明だらけですね。
この説明を読むと「リプルンふくしま」では、次のことをやっているように読めます。

①コンクリート固化について解説
②1立方メートルのコンクリートの塊に固めた、放射性廃棄物を毎日せっせと作る
③固形化した廃棄物の埋め立て

リプルンふくしま」でやっているのは①だけです。
③は、「リプルンふくしま」から2km離れたところにある「特定廃棄物埋立処分施設(旧フクシマエコテッククリーンセンター)」という全く別の施設で行っている。
②は③とは別の所で実施した後に③へ搬入します(詳細は「埋立処分の流れ」参照)。
そのため、「リプルンふくしま」に関する説明は「不正確」です。

そして、赤字の部分は「虚偽」ですね。
「私も行きました」と言っているので知らないはずがないのですが、コンクリート固化の対象は「液体」ではなく「固体」です。
埋立処分の流れ」にある通り、焼却灰など比較的溶出しやすい廃棄物は固化しますが、そうでないものはそのまま処分します。

審査する人が計画もしろとアホな主張

原発を推進したい動機を持つ経産省が、同時に原発の安全監督(原子力安全・保安院+原子力安全委員会)を兼ねていたため、監督が甘くなり、福島第一原発事故を招いたという経緯はご存知かと思います。
その反省から原発事故後「原子力規制委員会」という、経産省から独立して原発の指導監督にあたる組織が作られた(原子力安全・保安院+原子力安全委員会の権限を合併。前二者は廃止)のです。ところがなぜか、ALPS小委員会は原子力規制委員会ではなく経産省が事務局になります。
この「原子力規制委員会ではなく経産省にALPS小委員会を委ねた」という事実で、小委員会が最初から経産省の望む方向に誘導されていることがわかります。
経産省の甘さで起きた福島第一原発事故の処理なのに、いつの間にか利害当事者である経産省がカムバックしています。
こんなのに騙されてはだめですよ。
↓を見ればわかりますが、最終的には「原子力規制委員会」が審査します。
東京電力福島第一原子力発電所 多核種除去設備等処理水の処分に係る実施計画に関する審査会合|原子力規制委員会
審査する組織が排出計画を立てることこそおかしいでしょう。自分で計画して自分で承認するのだから。
これは「ミスリード」ですね。

都合の良い記憶力ですね

実はこれもウソです。原発事故前、福島第一原発では、年間約1・5兆ベクレルの水蒸小気放出をしていました(2010年度)。約10キロメートル南にある福島第二原子力発電所でも事故前は約1・9兆ベクレルの水蒸気放出をしていました。
デマ屋は、処理水の海洋放出の話をする時には意図的に再処理施設からの排出を無視しています。
片や水蒸気放出の話をする時には、「①通常の原発」と「②事故を起こした福島第一原発(≒再処理施設)」を同一視しています。

まずは①と②の違いを説明した方が良いですね。

日本にある原子炉の多くは軽水炉で以下のようになっています。

軽水炉
※「PWRの原子炉冷却系統 (02-04-03-02) - ATOMICA -」より引用

原子力発電所ではトリチウムは主に次のように作られます。

1)核燃料の核分裂によって発生する。
 最大の発生源で、発生したものは燃料棒の中に留まる。
 再処理施設から排出されるトリチウムはこれ。

2)一次冷却水に過剰反応制御剤として添加されているホウ素が中性子を吸収して発生する。
 上記図における一次冷却系の濃い青色の水が一次冷却水。絵の通り燃料棒(核燃料は燃料棒の中に密閉されている)に接した水です。
 1)に比べれば発生量は極少。
 原子力発電所から気体・液体の形態で排出される。

詳細は次の資料参照のこと。
トリチウムの環境動態
トリチウムの保健物理の最前線 原子力施設でのトリチウム発生

原理的には同じだが、トリチウム濃度を無視した「ミスリード」です。

世界最大のダムの10倍のコンクリートをどこに保管するのかな?

「海洋放出しか解決策はなかったんだ」という言説に注意してください。これはウソです。
捏造ですね。なので「虚偽」です。
最も現実的なのは海洋放出しか解決策はなかったんだ」なのですよ。
令和3年4月13日 ALPS処理水の処分等についての会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など」でも「海洋放出が現実的と判断し、基本方針を取りまとめました。」と言っている。

もうひとつの方法のモルタル化処理というのは、他でもない福島第一原発でもおこなっていることです。
先ほど虚偽としましたが、「おこなっている」のは液体ではなく固体についてです。
ちなみにモルタル化については「東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の現状に関する太平洋諸島フォーラム(PIF)事務局及び専門家との対話の開催|外務省」で次のように言っています。
コンクリートと混ぜる際に発生する熱により、ALPS処理水に含まれるトリチウムが空気中に蒸発する点、ALPS処理水を含むコンクリートは、放射性廃棄物と国内法上分類される点、現在貯蔵されているALPS処理水を更に希釈した上でコンクリートと混ぜると、質量が膨大になるという点などから、技術的、法律的側面で、コンクリート固化による処理は、現実性がない
どの位のモルタルができるか計算してみましょう。

ALPS処理水は100倍以上海水で希釈して排出するので、同レベルで淡水で薄めるのでしょう。
モルタル化では混ぜる水は多くても半分です。

130万立方メートル×100×2=2億6千万立方メートル

三峡ダム - Wikipedia」によると世界最大の三峡ダムで使ったコンクリートは2700万立方メートルなので、その10倍です。
途方もない量ですね。何処に置くのでしょうか?
現実的では全くないですね。寝言は寝てから言え!

アメリカのエネルギー省(DoE)は、その汚染水にセメントをぶち込んで、コンクリート固化して保管するという方法を選んだ。そしてピットを掘ってそこに保管した。
これだと、自然乾燥のように大気中にも放出されないし、川に流したり、海に流したりしないからより安全なんです
外務省のページにもあった通り「コンクリートと混ぜる際に発生する熱により、ALPS処理水に含まれるトリチウムが空気中に蒸発する」ので「大気中にも放出されない」はデタラメです。
誤り」です。

「海に流したりしないからより安全なんです」というが、量の問題で安全です。
TMIの件でもNRC(アメリカ合衆国原子力規制委員会)は安全だとしています。
これは「根拠不明」です。

最後に「本当は······海洋排水以外にも少なくとも二つの選択肢があった」書いています。

そんなこと言われんでも「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 報告書」では、海洋放出以外に4つの選択肢を提示いるので知っているわ!

ALPS水・海洋排水の12のウソ
烏賀陽弘道
三和書籍
2023/11/10

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