小説 貧困大国アメリカ

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ルポ 貧困大国アメリカ」(堤未果)を読みました。

過去に読んだことのあるのは全てデマ本であり、この本のことを堤氏が言及している内容から、デマ本だろうと推察した。
ちゃんと読んでから判断しないとダメだと少し反省。
ではデマ本か、少なくとも推薦図書として不適切であるか見ていきましょう。

プロローグ

*本文中の写真のうち、* のついているものは、撮影=香本果林、それ以外のもので注記のないものは、著者による。
*本文中の肩書きは、基本的に取材当時のものである。為替相場は、取材時に一番近い一ドル=110円に統一した。
プロローグの前にこの記述があった。
最近の堤氏の本では見られない記述ですね。まだこの頃(2008年)には職業的倫理観が少しはあったようだ。

2007年7月のカリフォルニア。うだるような暑さの中、マリオ・フェルナンデスは最後の荷物を車のトランクに詰め込んだ。妻のマリアは放心したように「差し押さえ物件」(Foreclosure)の札をつけられた家の前に立ちすくんでいる。
銀行の差し押さえ率が全米一であるここストックトンの町では、このひと月だけでこれと同じ札が30軒の家につけられた。サブプライムローンの支払い延滞で次々に空き家が増えた街は、今ではしんと静まりかえりすっかりゴーストタウンと化している。
これはプロローグの最初の文章です。
簡単なところから指摘すると、「Foreclosure」は「差し押さえ」という意味で「差し押さえ物件」ではないと思いますよ。
チャータースクールという認可学校がアメリカにあるのですが、この「チャーター」を「認可」ではなく「貸し切る」などと後に書いていますが、それに比べればまだまだかわいいものです。

PR - Detroit, Stockton, Las Vegas Post Highest 2007 Foreclosure Rates」によると、「銀行の差し押さえ率が全米一」なのは、ストックトンではなくデトロイトです。
※「Foreclosures drift to Sun Belt from Rust Belt」から、各地の差し押さえの件数の詳細を確認できるが、割合はわからない。

この本が出たのは2008年1月なので、2007年のことではなく2006年のことを言っているのかもしれませんね(そうならば、そう書け!とは思うが)。
上記の記事を見るとストックトンにおける差し押さえ申請件数が「2006 年より 271% 増加」とあるので、2006年が全米一であったとは到底考えられませんね。
直接比較はできないがデトロイト都市圏(デトロイト市ではない)では「2006年より68%増加」とあるので、これも一つの材料です。

「ゴーストタウンと化している」とあるが本当に「ルポ(ルポルタージュ:地に赴いて取材したことを報告すること)」ですか?
以下の事実がありますが、これはとてもではないがゴーストタウンが示す統計ではないです。

・上記の記事では、差し押さえされているのは5%以下
・「ストックトン - 人口統計 - プレイス エクスプローラ - Data Commons」によると、2007年前後含め人口は右肩上がりで増えている
・「Residential Rent Statistics for Stockton California | Department of Numbers」によると、賃貸の空き家率に大きな変化はない。
 2005年:5.10%、2006年:5.89%、2007年:5.73%、2008年:4.72%、2019年:4.73%

2022年に「ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?」というデマ本で存在しない会議のルポを書いていますが、2008年でも超胡散臭いですね。

サブプライムローンとは、社会的信用度の低い層向けの住宅ローンだ。2001年1月にアメリカ金融監督当局が出した通達によると、具体的には以下の4項目のうちどれかにあてはまる者が対象となる。
(1)過去12か月以内に30日延滞を2回以上、又は過去24か月以内に60日延滞を1回以上している。
(2)過去24か月以内に抵当権の実行債務免除をされている。
(3)過去5年以内に破産宣告を受けている。
(4)返済負担額が収入の50%以上になる。
ゴミのような説明ですね。
4項目は「サブプライム」の対象となる人であって「サブプライムローン」ではない。

4項目と書いてあるが、実際は5項目だし、書かれている4つにも誤りがある。

サブプライム住宅ローン問題の背景と影響(内閣府)」から引用します(分かり易くするために項番をつけて順番を合わせた)。
第1-1-1表 アメリカ金融当局によるサブプライムの定義
(1)過去12か月以内に30日間の延滞が2回以上、もしくは過去24か月以内に60日間の延滞が1回以上あった者
(2)過去24か月以内に強制執行、抵当物件の差押え、担保権の実行、債権の償却が行われた者
(3)過去5年以内に破産した者
(4)所得に占める借入れ関連の支出比率が50%以上の者、もしくは借入れ関連の支出を差し引いた月収で生計費を十分に賄えない者
(5)代表的なクレジット・スコアであるFICOスコアで660以下に相当し、予想デフォルト率が相対的に高い者
問題ないのは(1)だけ。
(5)の記述は丸ごと欠落しているし、(4)は赤字部分が足りない。

(3)破産宣告と破産は違う。
破産宣告ではまだ破産に至っていない。

(2)は書いている内容が足りないのは置いておいてマジでアメリカで働いていたか疑うレベルですね。

原文は「SUBPRIME LENDING | FDIC」で確認できるのだが、そこでは「Judgment, foreclosure, repossession, or charge-off in the prior 24 months;」と書かれている。
「A, B, C or D」とあるが、これは「(A and B and C) or D」ではなく「A or B or C or D」なのです。
逆に「A, B, C and D」としたら「A and B and C and D」となるのだが、こんなことも分からないの?

その利率は一般のプライム(優良顧客)と比べ非常に高く、最初の2、3年は利子が低いがその期間を過ぎると急激に10~15%に跳ね上がる。
気持ち悪い文章ですね。
サブプライムローンの2、3年後の金利しか具体的な数字がでていない。
プライムと2、3年の金利も書けや!って思いますね。
ちなみに、この記述だと、サブプライムローンの場合はこの形態しかないように読み取れますが、実際は違います。
Subprime "Exploding" ARMs Pose High Risks for Debt-Strapped Families | Center for Responsible Lending」によると、2005年8月時点で8割が変動金利で、そのほとんどが上記のようなローン(2/28 ハイブリッド ローン)とのこと。


連邦政府が発表した2005年のデータによると、同年、国内でアフリカ系アメリカ人の55%、ヒスパニック系の46%がサブプライムローンを組んでいる。白人はその人口に対してわずか17%だ(Federal Reserve Data 2005)。
この記述だと、母数は各人種全体であり、ローン自体をしていない人も含まれるように読める。

「Federal Reserve Data 2005」と書かれているが、こんなもので調べられるわけがない。
訳すと「連邦準備制度データ 2005」ですよ。
舐めていますね。データソースを示して信憑性を高めようとしているだけだと受け取れますね。

時期が少しずれますが「Subprime mortgages are nearly double for Hispanics and African Americans | Economic Policy Institute」には次のようようにあります。
2006年、ヒスパニック系とアフリカ系アメリカ人の住宅購入におけるサブプライム住宅ローンの割合は、白人の割合の約 2 倍でした。白人の住宅購入における住宅ローンの 26% がサブプライムでした (図を参照)。ヒスパニック系では 47%、アフリカ系アメリカ人では 53% でした。
母数は「全体」ではなく「住宅購入の際のローンを組んだ人」ですね。
ちゃんと書けボケが!

第1章 貧困が生み出す肥満国民

企業に対する規制の撤廃・緩和し・・・
2023年のデマ本「 100分de名著 ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』」では「政府による競争制限を撤廃」などという意味不明なことを書いていたが、2008年時点では少しはまともだったようですね。

第40代ロナルド・レーガン大統領は効率重視の市場主義を基盤にした政策を次々に打ち出し、アメリカ社会を大きく変えていった。目的は、大企業の競争力を高めることで経済を上向かせること。そのために企業に対する規制を撤廃緩和し、法人税を下げ、労働者側に厳しい政策を許し社会保障を削減する。
その結果、安価な海外諸国の労働力に負けた国内の製造業はみるみるうちに力を失い、労働者たちは続々と失業者となった。
製造業の雇用者数は、1,860 万人(1981年1月:レーガン大統領就任時)⇒ 1,670万(1983年1月:第二次オイルショックのため)⇒1,810 万人(1989年1月:退任時)と推移しています。
※「PolitiFact | Michael Moore claims in his movie, 'Capitalism,' that during the Reagan era, millions were thrown out of work」の情報より
 これは、マイケル・ムーアに対するファクトチェックです。

そのため「労働者たちは続々と失業者となった」はデタラメです。


アメリカの貧困人口および貧困率の推移
2005年度のアメリカ国内貧困率は12.6%、うち18歳以下の貧困児童率は17.6%(約6人に1人)で、2000年から2005年の間に11%上昇した。これは5年間で新たに130万人の貧困児童が増えた計算になる。
レーガン政権以降、国内の所得格差を拡大させている市場原理主義は、中間層を消滅させ、下層に転落した人々が社会の底辺から這い上がれないという仕組みを作り出し、60年代に連邦政府が貧困層救済の目的で打ち出した数々の社会保障政策を徐々に縮少していいった。
文章を読むと貧困が悪化しているように受け取れますね。
しかし、付けている図の貧困率を見ると横ばいか低下傾向にあるように見えますね。
ピコンピコン増えているところは不況によるものです。

しかし、このグラフは何ですかね?Y軸が一つしかない上に、単位は「%」になっているが、そのグラフに人数も一緒に載せている。
人数の単位が%ってありえないですね。
この元の図は以下です。

Number in Poverty and Poverty Rate: 1959 to 2006
※「Income, Poverty, and Health Insurance Coverage in the U.S.: 2006」にある「Figure 5. Number in Poverty and Poverty Rate: 1959 to 2006」より引用

当たり前のように「Numbers in millions, rates in percent」と百万人単位の人数と割合はパーセントだと書かれていますね。
劣化引用の天才ですね。今見ているこの本は第15刷なのだが、関係者の誰一人としてこのデタラメな引用に気が付かないというのには驚きますね。

「18歳以下の貧困児童率」について触れていたが、グラフは無いので作ってみました。

アメリカの貧困率の推移
※「Historical Poverty Tables: People and Families - 1959 to 2022」のデータより作図

何か気づきませんかね?
私は「18歳未満」としています。データ範囲は広いですが同じ国勢調査のデータを使っています。
堤氏は「18歳以下」、私は「18歳未満」。
元データを見ると「Under 18 years」とあり、これは「18歳未満」です。
「以下」と「未満」の区別もつかない国際ジャーナリストさんは恥ずかしいですね。

グラフを見ると65歳未満の方が景気の影響を敏感に受け、18歳未満は親世代の貧困に影響されることがよくわかりますね。

ちなみに18歳未満を「児童」と呼ぶのはいかがかと思いますけどね。

たとえばブッシュ政権が打ち出した、2009年までに保育援助資格を有する低所得家庭のうち30万世帯を保障範囲から削減する「保育援助基金の五年にわたる凍結」は
これはかなりミスリードしていますね。
予算を削減するわけでも、支出を凍結するわけではない。
予算増額の凍結であり、インフレを考慮すると実質削減になってしまうと考えられているだけです。
この文章からは、そのようには受け取れませんね。
詳細は「States Feel the Pinch of Tight Bush Budget • Stateline」「2008 Budget Fact Sheets」参照のこと。


公立小学校に通う生徒五〇%が肥満児であるニューヨーク州は、二〇〇六年に肥満対策を打ち出した。
さっきは18歳以下を「児童」と呼んで、今度は小学生を「生徒」と呼ぶのか。
日本では小学生は「児童」と呼ぶのですけどね。

そんな細かいところはよいとして、ニューヨーク州の公立小学生の50%が肥満児だ?
バカを言ってもらっては困ります。

Preventing Chronic Disease | Severe Obesity Among Children in New York City Public Elementary and Middle Schools, School Years 2006–07 Through 2010–11 - CDC(ニューヨーク市立小中学校の児童の重度の肥満、2006-07年度から2010-11年度 - アメリカ疾病予防管理センター)」によると、肥満の割合は2006年度で7~10歳で6.8%、11~14歳で7.0%とのこと。

てんでデタラメですね。
最初に触れた差し押さえ率の2位のを1位と書いたのはタイミングなどの違いであり得るかもしれないが、これはない。
デマ本確定ですね。

すべての公立小学校の生徒に無料で支給するコーラを、ビタミンC補給のためだとにしてオレンジジュースに代えるよう指示したのだ。
だが、この政策はほとんど効果を上げなかった。
貧困児童の教育レベルの低さと肥満度は比例するのだ、とエミリーは言う。
教育レベルの低さと肥満度が比例するならば特に問題はないのでは?
教育レベルが低くなるほどに肥満度が上がることは、反比例するというのだけど、そんなことも分からないの?

この件を英語で検索しても出てこない。そもそもコーラを小学校で無料で提供していたという事実を確認できない。
肥満率が50%というがデタラメだったので、これもその可能性が高い。

1966年に始まった無料割引給食プログラム(National Lunch Program)は、もともと貧困地域と長時間通学を余儀なくされる地域の生徒を対象として始まった連邦事業だ。
惚れ惚れするほどのデタラメですね。
「National Lunch Program」というものは存在せず「National School Lunch Program(全国学校給食プログラム:略称NSLP)」というものであればあります。
NSLPは1946年にできています。
「1966年に始まった無料割引給食プログラム」というのは、1966年児童栄養法のことを言いたいのだろうが、今一不明。
無料割引給食プログラムというのは、「Free or reduced-price lunch(FRPL)」でありNSLPの一部らしいが、いつから開始になったのかわからない。
※詳細は『Free or reduced-price lunch - Ballotpedia』『Fast Facts: Public school students eligible for free or reduced-price lunch (898)』参照

どちらにしても、堤氏の書いていることはデタラメであることには変わらない。

大きな被害が出たミシシッピとルイジアナはそれぞれ全米で1番目と4番目に貧しい州だ。
「たとえばルイジアナ州では、住民の2人に1人がフードスタンプ受給者なんです」
・・・
ルイジアナ州ではハリケーン・カトリーナの前年2004年の時点ですでにフードスタンプ受給者率は63.8%と高い。
括弧の中は「ニューヨーク州でマイノリティの人権専門弁護士をしているマイク・ウォーレン」という人の発言とのこと。
どちらの発言もルイジアナ州では半数以上がフードスタンプの受給者とのこと。

ところがどっこい、デタラメです。
Program Statistics 2004-2005 | Louisiana Department of Children & Family Services」でルイジアナ州のフードスタンプの受給率を確認できます。
そのページの「Recipiency Rate and Poverty Level(受給率と貧困レベル)」に数字が載っています。
63.8%という数字がバッチリ載っています。堤氏正しいじゃん!などと思ってはいけません。
63.8%は「% of People Below Poverty Level that Receive Food Stamp(フードスタンプを受給している貧困レベル以下の人々の割合)」であって、母数が違います。
「住民の2人に1人」と書いているのだから、母数は全住民であるべきです。

別の数字で「Percent of Population that Receive Food Stamps(フードスタンプを受給している人口の割合)」というのがあります。
意味合い的にこちらですね。
こちらの数字は15.4%です。
クソデマ屋が!

確認しやすい数字を見るとデタラメばっかですわ。
こんな感じなので、数字に限らず、ほとんどがデタラメだと思った方が無難です。
第1章にして、調べるのがだるくなってきたが、あと10ページなどでもう少し頑張りますか。


アメリカ農務省のデータによると、2005年にアメリカ国内で「飢餓状態」を経験した人口は3510万人(全人口の12%)、うち2270万人が成人(全人口の10.45%)、1240万人が子どもである。
「飢餓人口」と定義されるこれらの人々の大きな特徴は、(1)6割が母子家庭である、(2)子どものいる家庭の飢餓人口数は子どものいない家庭の2倍である、(3)ヒスパニック系かアフリカ系アメリカ人が多い、(4)収入が貧困ライン以下、の4つである。
デタラメ満載ですね。
「アメリカ農務省のデータ」なるものは参考文献等で示されていませんが「USDA ERS - Household Food Security in the United States, 2005(米国農務省経済調査サービス 2005 年の米国における家庭の食糧安全保障)」これでしょう。

『「飢餓人口」と定義される』なんて書いていますが、「飢餓人口」という言葉は使っていません(もちろんそれに類する言葉も)。
そのような言葉は使わずに「⾷料安全保障が低い・・・①」「⾷料安全保障が⾮常に低い・・・②」を使っています。
①は、⾷料アクセスの問題の兆候はあるが、⾷品摂取量の減少はほとんどか、まったくない。
②は、実際に空腹だったり、食べるものがない時があったりなどがある。

世帯数としては、①が7.1%、②が3.9%です。
「飢餓人口」といったら②を一般的にイメージするでしょう。「貧困人口」なら①も含めるでしょうけど。
ということで、その差す対象からおかしいことを言っています。

次に「6割が母子家庭である」の間違いを指摘しましょう。
母子家庭における①または②の割合は 23.6% です(上記資料の p.19 にあるTable 2参照。次も含め基本世帯数。)。
①または②に占める母子家庭の割合は 30.8% です。
ね。まるっきりのデタラメでしょ?

数字・法律が出てきたらデマだと思え!という鉄則は2008年から有効ですね。

ニューヨーク州ハーレムの「プロジェクト」(低所得者用集合住宅)に、7歳と9歳の息子二人と一緒に暮らすアフリカ系アメリカ人のモニカ・デイビスにとって最も大きな問題は、いかに親子3人餓死せず生きのびるかということだ。
・・・
1974年に始まった連邦住宅プログラムである「プロジェクト」では、一定の基準設備と基準賃料を満たす民間住宅で世帯収入の30%を超える家賃分を国が負担する。
・・・
プロジェクトの入居世帯の平均年収は1万8000ドルで、モニカのような経済的に苦しいシングルマザー世帯の平均家賃は300ドルだ。
気持ち悪い文章であり、かつ間違っていますね。

「プロジェクト」という言葉を使っていますが、1回目・3回目は住宅、2回目は制度の意味で使っている。
同じ文章の中で同じ言葉を違う意味で使うのは御法度です。校正くらいはしましょうよ。

そもそも「プロジェクト」という名前すらおかしい。
1974年に始まったのは「住宅およびコミュニティ開発法(Housing and Community Development act)」によって作られた「セクション 8(Section 8)」または「住宅選択バウチャー (HCV:Housing Choice Voucher )」と呼ばれる制度です。
セクション 8には「プロジェクトベース(PBV)」と「入居者ベース(HCV)」の2種類があります。
「プロジェクト」と呼んでいるものは「プロジェクトベース」のことだと推察されます。
そして、セクション 8で主流なのは入居者ベースなのです。

ということで、何を言っているかさっぱりわからないってことになります。

詳細は以下参照
Housing Choice Voucher Tenants FAQ - Beloit Housing Authority - Welcome to the City of Beloit
Short History of Public Housing in the US (1930’s – Present) | HomesNow!
HCV Programs and Initiatives | HUD.gov / U.S. Department of Housing and Urban Development (HUD)
Multifamily Housing - Section 8 Background Information - HUD | HUD.gov / U.S. Department of Housing and Urban Development (HUD)
6 key differences between PBV and HCV
Section 8 (housing) - Wikipedia

聞けば2001年に、アメリカ農務省は肥満児の栄養状態改善策として「ミルクを飲みなさい」(Got Milk?)というキャンペーンを打ち出したという。
過去にアメリカで働いて、国際ジャーナリストを自称しておいてこれはないわ。

Got は Get の過去形なので「牛乳ある?」「牛乳飲んでいる?」でしょうに。
命令形・過去形+疑問符ってなんですか?
「Get Milk」なら「ミルクを飲みなさい」でも間違いではないが「ミルクを飲もう」の方が適切でしょう。
どちらにしてもあり得ない。

ついでにいうと、このキャンペーンは「2001年に、アメリカ農務省は肥満児の栄養状態改善策」として打ち出したものではありません。
1993年にカリフォルニア牛乳加工業者委員会が牛乳の販売促進のために打ち出したキャンペーンです。

詳細は以下参照
Aubrey Plaza’s Wood Milk ad and the controversy around it, explained - Vox
Why ‘Got Milk?’ Is One of the Greatest Ad Campaigns of All Time | Saveur
Got Milk? - Wikipedia
Home - Got Milk

第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民

「ハリケーン・カトリーナは自然災害などではありません、人災でした」
そう言うのは連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency FEMA)の元職員であるジェフリー・アンダーソン(仮名)だ。
・・・
ハリケーンのような自然災害はテロのような人災と違い、科学的データから計算して10年後の予測を出せるんです。ですから予算も立てやすい。カトリーナも、あんな悲惨な状況にならずにすんだはずなのです
本当にFEMAの元職員がそんなことを言っていたのですかね?
10年後にどの位の自然災害が起きるか分かるのですって。常識的にあり得ない。
本当に取材しましたか?

犠牲者をあそこまで多く出した大きな原因の一つに、FEMAの対応の遅れが挙げられる。
8月25日。ルイジアナ州知事キャスリーン・ブランコが、ルイジアナ州に非常事態宣言を発令。フロリダ、アラバマ、ミシシッピ、ルイジアナ等湾岸各州が、国防総省に兵員援助要求を開始した。
う~ん。ルイジアナ州で非常事態宣言を発令したのは8月26日なのですよ(詳細は「Timeline: Hurricane Katrina and the aftermath」参照)。
また、カテゴリー4になったのが8月29日と書いているが実際は8月28日。
こんなレベルのことをいちいち指摘していられないので、今後はあからさまにおかしな箇所だけに限定します。

同日、ブッシュ大統領はルイジアナ州に連邦非常事態宣言を発令し、国土安全保障省とFEMAに、カトリーナ対策に関わる全権を委任した
これは日本語の文章として間違っているので、事実に反することを書いていることが簡単に分かります。
全権を2つの組織に与えられませんよね?そのため、全権を与えていないか、対象がどちらかだけかってことになります。
この場合は、当たり前のように「全権を委任」はされていません。

ちなみに、FEMAは国土安全保障省の一つの部局なのですよね。横並びで書いている時点で関係性をまるで理解していないことがわかります。

参考情報
ハリケーン「カトリーナ」に対する米国政府・州政府等による対応の問題点について(第 1 部)
アメリカの連邦における災害対策法制
災害カタストロフィにおける個人の「福祉」と「公共性」―アメリカ合衆国の連邦災害政策を素材として―
Criticism of the government response to Hurricane Katrina - Wikipedia
Timeline of Hurricane Katrina - Wikipedia

編集者・著者の低レベルさを如実に表すものを紹介します。
「国土安全保障省」が先ほど登場しましたが、何回も登場します。
最初は「国土安全保障省」とあり、2回目は「DHS(国土安全保障省)」、3回目は「国土安全保障省(Department of Homeland Security DHS)」となっています。
常識的には3回目の表記を最初にして、2回目以降は「DHS」か「国土安全保障省」だけを書きます。
進むごとに表記が詳しくなるということは、文章全体としてチェックしていないってことですよね。
こんな低レベルな編集で売れてウハウハですね。


その日の午後に、FEMAのマイケル・ブラウン長官が、「すべての消防その他救急救援組織は、ハリケーン被災地で、FEMAによって申請・承認されない限り、独自の緊急救援活動をしてはならない」との声明を発表。
また意味の分からないことを言っていますね。
全権委任されているはずのFEMAが誰に申請して、誰から承認されないといけないのだ?
こんな感じで意味が通らないものは間違っているのですよね。
国際ジャーナリストが一次情報を確認しないので、仕方なく素人が一次情報(FEMA: First Responders Urged Not To Respond To Hurricane Impact Areas Unless Dispatched By State, Local Authorities)から引用します。
米連邦緊急事態管理庁(FEMA)のマイケル・D・ブラウン国土安全保障次官(緊急事態準備・対応担当)は本日、ハリケーン「カトリーナ」の被害を受けた郡や州に対し、相互援助協定や緊急事態管理援助協定に基づき、州当局や地元当局から要請を受け、合法的に派遣されることなく対応しないよう、すべての消防・救急部門に呼びかけた。
「FEMAによって申請・承認されない限り」とはどこにも書いていないデタラメですね。

この決定の結果として、ハリケーン被災地住民から地元救援部隊に支援要請があっても、FEMA支部職員の承認なしには活動できなくなった。
「FEMAによって申請・承認されない限り」などと書かれていないので、これもデタラメでしょうね。

2004年、ニューオーリンズ近隣地域でハリケーンの活動が再び活発化しているという気象学者らの報告を受けて、連邦政府が州ごとに行った精緻なシミュレーション「ハリケーン・バム」も、数万人の被災者が出るという結果をはじき出している。
うぁ~引くわ。「ハリケーン・バム」は災害対策のための机上演習なのですが・・・

Preparing for a Catastrophe: The Hurricane Pam Exercise
HURRICANE PAM
"Hurricane Pam" simulation - SourceWatch


被災地の賃貸住宅の家賃は被災前の3倍に上昇し、貧困層は次々に追い出され、それに比例して住民の自殺率は被災前の3倍にはねあがっている。
また胡散臭い数字が出てきましたね。
Cost of Housing in New Orleans Increases 33% After Katrina says HUD - HousingWire
この記事によると、インフレ調整後の比較で27%賃貸価格が上がったそうです。

自殺の件に関しては2006年のスポットの情報として3倍という記事はあるが、ニューオリンズがあるルイジアナ州の長期データによると増加傾向があるようには見えません
スポットの情報を持ち出して「比例して」といえるのが凄いですね。

車社会のアメリカでは、車を持たなければ通勤にはバスを使うしかない。だがニューオーリンズ市内の公共バスは、1年後の2006年8月末の時点でも被災前のわずか17%しか運行していない
ニューオーリンズ地域交通局(RTA)の資料のデータによると、被災前2004年⇒後2006年で3割に減っています。

この本はデータソースを示している箇所でもデタラメなので、そうでないところはどれだけ間違っているのか想像もつきません。

ニューオーリンズに限らず、低所得層が集中して住む都市部の地価は下落し、固定資産税に依存する自治体の財政を圧迫し、公共サービスが低下している。富裕層が集まる郊外の地価は上昇し、それに伴って自治体の税収も上がり、都市部と郊外の経済格差がますます拡大していくという悪循環がアメリカの至るところで起きている。
アホだ。郊外だろうが市街だろうが、同じ市であれば市内で分配するわ、ボケ!


「低地第九区」のように海抜下にある貧困地区の一部を、富裕者地区を守るための貯水池に改造しようという計画もすでに進んでいる(Wall Street Journal, Sept.15, 2005)。
ブッシュ大統領の復興計画づくりに力を貸した「共和党研究グループ」の世話役の一人であるマイク・ペンス下院議員は、同紙のインタビューで、共和党は被災地の瓦礫の中から資本主義の理想郷を出現させると言っている(同右)。
我々は湾岸を自由企業中心の地に作り変える。官が取り仕切るニューオーリンズ復興など問題外だね
これまで存在するかわかわからない人のかなり怪しい発言を引用していました。
その発言が本当にあったかは確認できないものでしたが、これはネタ元と日付まであるので調べられる。
デマである決定的な証拠を残してくれましたね。

「Wall Street Journal, Sept.15, 2005」と書いてあるのは「After Katrina, Republicans Back a Sea of Conservative Ideas - WSJ」この記事のことです。
有料なので該当部分は見られないが、そこを引用した記事「Trump's handling of Harvey is a massive blunder — but watch out for what Republicans will do next | Salon.com」がありました。
"We want to turn the Gulf Coast into a magnet for free enterprise. The last thing we want is a federal city where New Orleans once was."
湾岸を自由企業の磁石にしたいのです。ニューオリンズがかつてあった場所に連邦都市ができることを望んでいるのです。
堤氏が書いた内容と全く違います。
新聞を引用しているはずのものがここまでデタラメでだということは、他はどれだけ信用できるか?という話になりますね。

ハリケーン・カトリーナの災害があった直後、ルイジアナ州議会は州内の学校128校のうち107校を管理下に置き、チャータースクールに切り替えた。
チャータースクールとは、資金は国から出るが運営自体は民間によって行われる学校だ。ただし、定められた期限内に生徒数や決められた目標事項などのノルマを達成できなかった場合は閉校となり、その負債に関しては運営者側が負うことになるため、競争は厳しい。
・・・
チャータースクールへの切り替えを実施した州政府は、まず公立学校の全教師と職員、合計7500人を解雇したという。その結果、組合に加入していたルイジアナ州の教師の数は4700人から500人に激減した。
説明がつかない文章であり気持ち悪いですね。
公立学校の全教師を解雇したそうなのだが、21校(128-107)の公立学校(公立学校とは書いていないが私立学校を強制的に変更は常識的に考えられない)は誰が教師をしているのですか?
全員非常勤教師?
組合員が減ったのは公立学校教職員組合なのでは?残った21校の教師が公務員のままで、組合に残ったってことなのでは?

ちなみに、「ノルマを達成できなかった場合は閉校となり」とあるが「アメリカにおける教育改革の一事例 チャーター・スクールを中心」によると、その理由で閉校となるのは 9.1% であり要因としては4位です。

第2章の終わりまで頑張って読みました。
アメリカに関することであり調べるのが大変で、今はこれ以上読む気にはならないので、いったんストップします(再開するかは未定)。

推薦図書に値しないデマ本・低クオリティ本であることは十分に確認できました。

真偽の話ではなく、この本を批判している記事を見つけました。
異議あり、『貧困大国アメリカ』|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
ニューズウィーク日本語版はおかしな記事が沢山ありますが、これはまともなのでオススメします。

第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々


第4章 出口をふさがれる若者たち


第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」


エピローグ



ルポ 貧困大国アメリカ
堤未果
岩波書店
2008/1/22



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