特殊害虫から日本を救え

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特殊害虫から日本を救え」(宮竹貴久)を読みました。

農作物に害をなす外来種の害虫であるウリミバエ、ミカンコミバエ、アリモドキゾウムシ、イモゾウムシをその地域から根絶させようとする歴史と今のことが書かれています。
地域としては沖縄・九州が主な話で、台湾・中国から飛んでくる、人の行き来で紛れてくるなどで定着してしまったものをターゲットにしています。

目に留まったことを紹介します。

・不妊化したオスをばらまいて根絶させるという話は聞いたことがある。
 不妊オスが少ないと成功しないとのこと。無精卵の割合が高くならないのだから当然といえば当然。
 超大量の不妊オスをばらまくのは大変なので、農薬をまく・寄生する植物の除去・特異的なフェロモンで呼び寄せて殺虫剤で殺すなどの手を使う。
・フェロモンだけでは根絶が厳しい。効かない類が発生するから。
・フェロモンで減らした上で、不妊オスでトドメというパターンが使えると良い。
 フェロモンの効果が低い・移動性が低い種を広範囲(離島ではなく本州とか)で根絶させるのは厳しい。
 だから、移入させないように寄生する植物の持ち込みを制限(植物検疫法)しないといけない。
 だが、メルカリなどで扱われることがあるらしい。これはメルカリ等が取引できないようにすべきなのですけどね。
・不妊オスはガンマ線(コバルト60)を70グレイ照射して作る。
 弱すぎると不妊化しないし、強すぎると弱って野生のオスに負けるなどして役に立たない。
 ヒトだと3.5~6グレイで不妊化するらしい(医療の中の放射線基礎知識|北里大学病院 放射線部)。
 高等動物ほど放射線に弱いというが、この数字からもそれを確認できますね。
・不妊化を使う時の条件が書かれている
不妊化法の原点に立ち返って、同法の産みの親であるニップリング博士が1964年に述べていた不妊化法を虫に用いる場合に前提となる主な六つの条件をおさらいしておこう。

(1)性的競争力を著しく低下させずに対象害虫を不妊化できること。
(2)大量増殖が可能なこと。
(3)野生虫の低密度時のモニタリング法があり、不妊化法が効力を発揮するレベルまで野生個体群の密度を下げられること。
(4)対費用効果が保証されていること。またもし保証されていなくても、それだけの環境条件があること。
(5)根絶の状態を維持できる条件(再侵入対策)のあること。
(6)放飼した不妊虫が野外で悪影響を及ぼさないこと。

・再侵入に備えて、フェロモンで呼び寄せる罠を空港・港・各都道府県(基本2カ所ある)に設置している。
・風に乗ってくる八重山諸島などでは毎週100万匹以上の不妊オスをヘリコプターで放ち続けている
・アリモドキゾウムシの幼虫にかじられたサツマイモはとても苦い物質を出して食べられなくなる。
 人だけでなく豚も見向きもしない。これはイポメアマロンという物質が原因で、人がサツマイモを傷つけても発生する。
 虫に食べられるくらいの方が安全だ!食品ロスだ!という方々に高値で買い取っていただきたいところですね。
・1995年に室戸市にアリモドキゾウムシが上陸した際には、サツマイモ・ノアサガオ・ハマヒルガオを根っこまで除去した。
 ブルドーザで掘り取り、そして火炎放射器まで使ったそうだ。
・浜松市でもアリモドキゾウムシが2022年に見つかった(アリモドキゾウムシの対応について/浜松市
 本州では冬を越せないと思われていたが温暖化の影響か浜松市で生き残った。
・ウリミバエの不妊メスもウリに産卵をする(孵らないが)

著者は、任期付きではなく任期なしで基礎研究をできるようにしないといけないと書いていますが、その通りです。
日本の成長の源泉ですから。年寄りの介護などに金を使っても基礎研究の積み上げは一向にできない。
金を使うべきところを考えるべきです。

「おわりに」で著者の切なる願いが書かれていた。
もしも南西諸島の果物やサツマイモを島外に郵送したり、ネット販売に出品したりしようとする人たちがいるとしたら、警告したい。その行動によって、70年以上もの歳月をかけ、多くの税金を使って、日本の農業を守るため特殊害虫を根絶すべく日々働いてきた現場の方々の努力すべてが、一瞬にして無駄になってしまうかもしれないのだ。本書を書いたのは、そのような危機感のゆえでもある。
本書を読まれて、農作物の移動には規制があることを少しでも多くの方に知ってもらいたいと願う。ここまで根絶を達成してきた歴史をいったん振り返り、今後の新たな戦略の糧にする役割を、もし本書が担ってくれたら幸いである。名もなき戦士たちの戦いに終わりはなく、今この瞬間も彼らは日本の農業を守るため働いている。


特殊害虫から日本を救え
宮竹貴久
集英社
2024/5/17

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