草が生える「米ビジネス」論

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米ビジネス」(芦垣裕)を読みました。

結構怪しいことが書かれているのでツッコミます。

コシヒカリBL

コシヒカリBLは、コシヒカリにいもち病耐性のある遺伝子を交配により取り込んだ複数の品種の総称で、従来のコシヒカリと同等ということでコシヒカリという名前で売られています。
これに関する話です。

なおコシヒカリBLについては「コシヒカリBL - 新潟県ホームページ」がわかりやすいです。

ではおかしなところを指摘しますか。
コシヒカリBLは、種苗法に基づき農林水産省が厳正に審査をし、「いもち病抵抗性の性質があること以外は、従来型のコシヒカリと同等である」と認められたものなのです。
さらに、JAS法(日本農林規格等に関する法律)では、種苗法上の品種名が別だとしても、「生産された米の形状や品質に差がないものは、検査により認定された産地品種銘柄を表示して販売できる」というルールがあります。
法律が違っています。
産地品種銘柄は、農産物検査法に従って作られている農産物規格規程で規定されています。
そのため、JAS法の話ではありません。

詳細は「農産物検査を行う産地品種銘柄の取扱いについて:農林水産省」を参照のこと。

コシヒカリBLは毎年、その年の気候なども見て、BL何をどの地方で使うのかが変わってきます。ただし、その情報はシークレットでわかりません。
う~む。まるっきりデタラメですね。
正しいことを書きます。

・2~3年ごとにどうするかを決める。「毎年」と書くがそうではない。
・「その年の気候なども見て」と書くが、各農家がまくのは前年育てたもの(原種)から採れた種なので、「その年」を見たところで話は遅い。
 しかも見るのは「気候」ではない。いもち病にも変種などがあり、どのような分布になっているかを見て決める。
・「BL何」と一品種を使うように読めるが、複数のBL品種があって(BL1号~6号、9~13号)その内の4品種を割合を変えてブレンドして原種を育てる。
・「どの地方で使うのかが変わってきます」とあるが、どの地方でも同じ。
 そもそもバラバラだといもち病の影響が読めないし、原種の生産・種子流通で混ざらないようにするのが手間がかかる。
・「その情報はシークレットでわかりません」とあるが、公開されている。

ね、デタラメでしょ。
もう少し調べてから本を出してもらいたいですね。

参考情報
2 コシヒカリBLの開発状況と特性 - 新潟県ホームページ
コシヒカリBLの原種混合を行いました - 新潟県ホームページ
いもち病抵抗性マルチラインの種子生産において採種圃場での混合栽培が種子の構成比率に与える影響
コシヒカリ新潟BLの開発とその利用
新潟県における 9コシヒカリ新潟 BLシリーズ」の開発と普及

産地品種銘柄

コシヒカリは、ほぼ全国で栽培されています。ただし、北海道、東京都、沖縄県は、産地品種銘柄になっていないので、栽培されていたとしても「コシヒカリ」と表示することができません。
本当ですか?胡散臭いなぁ。

消費者庁の「玄米及び精米に係る食品表示制度の改正について」によると、「農産物検査法による証明を受けている場合」は、品種名を表示できることになっている。
そして、この時の改正で「農産物検査法による証明を受けていない場合」も、証明できる情報(種子購入記録・栽培記録など)があれば品種名を表示できるようになった。

そもそも、農産物検査法では産地品種銘柄しか検査しないわけではない。
必須銘柄・選択銘柄とあって、必須銘柄の場合は全ての登録検査機関(民間を含む)で検査できないとならないが、選択銘柄は必須ではない。
これら以外の検査をするか、しないかは検査機関次第。

北海道を例に見てみよう。
令和5年には、必須銘柄・選択銘柄あわせて21品種あったが、21品種に加えその他の品種の検査も実施している。
このことから、『「コシヒカリ」と表示することができません』は誤りだと思われる。

参考情報
農産物検査を行う産地品種銘柄の取扱いについて:農林水産省
令和6年産農産物の産地品種銘柄設定等の状況
北海道における5年産米穀検査実績(速報値)

科学的根拠を教えてください

まず、無農薬栽培が最も理想です。農薬を使うことでお米の品質が良くなり、効率化を図れますが、効率を考えず究極的に味だけを追求するのであれば、自然な環境の中で元気なお米を育てたいところです。
もしくは、稲を健康的にする漢方薬やミネラル成分を使っても良いでしょう。こうした育て方をしないのであれば、稲を強く健康に保つには、土壌を活性化させ、微生物の力も借りなければいけないでしょう。
美味しい米を作るには?ということで書かれている。
無農薬だとなぜ美味しくなるのでしょうか?
農薬で品質が良くなると書いているが、品質の中には美味しさは含まれないのですか?
まるで意味がわかりませんね。

「稲を健康的にする漢方薬やミネラル成分」も意味不明ですね。
しかし、漢方薬で稲を育てるのですか?何をどれくらいの量を使うのか知りませんが、科学的根拠はあるのですか?
ミネラルは、水素・酸素・炭素・窒素以外の元素の総称なのですが、何を指すのですかね?
そもそも、健康な稲から美味しい米がとれるというはどういう論理ですか?

ところで漢方薬は「肥料の品質の確保等に関する法律」で肥料として認められているのですかね?

たとえば、和牛・フォアグラは不健康だが、それを美味しいという人は沢山いる。
超胡散臭いですね。

逆に作り手として、農薬や肥料を用いる際に気をつけたいことがあります。それは、お米に農薬の成分が、安全性に問題がない程度でも、微かに残ることがある点です。
・・・
しかし、食味計で高得点を示していたお米であっても、試食をした際に口の中に違和感が残り、食味が良いとは言えない場合があります。
これは農薬や肥料が抜け切らないで、お米の中に残っている場合に起きやすく、ほとんどの場合は肥料過多によるものです。これは肥料の与えすぎや、農薬によって雑草を除去しすぎて田んぼの養分が抜けきらないために起こってしまうのです。
微量な農薬をこの人の舌で検知できるように読めますが、本人が後で「肥料過多」が原因だと書いている。
肥料過多で不味いというだけで、農薬が残っていること自体が問題ではなく、微量な農薬を舌で検知できているわけではない。

伝染病対策や害虫対策のために、最低限の農薬を使わなければお米の収穫が難しくなるので、農薬を全否定するわけではありません。しかし、安全であっても口の中に違和感が残るものは作ってほしくないなと、いち消費者として思っています。
口の中に違和感が残るのは、自分で「肥料過多」が原因だと書いていているだろ!
農薬のせいにするな!
この人は、農薬を使わないことによる安全性にたいするリスクなんて思いもしないのでしょうね。

玄米や発芽米、分搗き米を買う時の注意点として、なるべく農薬を使っていないお米を選ぶことが重要です。
農薬のほとんどは糠につくと言われています。白米だと糠を除去してしまうので、理屈から言って農薬の影響はほとんどありません。しかし、玄米は糠に包まれたままで、農薬の影響を受ける可能性もあります。
この人に科学的根拠を望むのは無駄ってことですね。

作物の残留農薬に関する研究」によると農薬残留量は次の通り(精米で一番高いものをピックアップ)。
籾殻3.77ppm、玄米1.31ppm、精白米0.99ppm、糠4.99ppm

ppmというのはあくまでも濃度なので米の各パーツの重量比がわからないと実際の量はわからない。
お米のはなし」(国際農林業協働協会)によると、籾殻を含む全量:玄米:精白米=100:80:72とのこと。

籾殻:糠:精白米=3.77×0.01×(100-80):4.99×0.01×(80-72):0.99×0.72=0.754:0.3992:0.7128≒19:10:18

最も農薬が残るのは籾殻ですね。ただ籾殻は食べないので可食部分で見ると、精白米の方が糠よりも2倍近く多い。
別に白米が危険だと言っているわけではないです。単に著者がデタラメであることを示しているだけです。
そもそも、マージンの上にマージンを重ねた上に、基準値よりも桁違いに低い残留量しかありません。
そんなリスクよりも、塩分量・酒・たばこ・運動不足・過食・カビ毒などのリスクの方がよっぽど高いので、気にするところがおかしい。

お米をさらに美味しく安全に食べられるようにするために、農薬をつかわない有機栽培の田んぼも多く出てくるはずです。
ダメですね。
有機農業で使える化学農薬があります。
また、エセ有機農業(有機JAS認定を受けていない)は未認可の怪しいものを使い、それらの安全性は科学的検証を受けていません。
有機=安全だと短絡的に考えている著者などは有害ですね。個々人がどう思うと勝手ですが発信力がある人は科学的でなければなりません。

う~む

「LGC潤」には、アレルギー物質が含まれていないと言われており、お米アレルギーの方でも食べられると言われています。ただし、これらの低グルテリン米も農作物であることは変わりないので、年によってタンパク質の量が変化します。そのため、実際に利用する場合には、成分表の添付など、安心できるところから入手すべきでしょう。
なんだかな~。
アレルギー物質が含まれないということは遺伝的形質なのだろうが、年によってタンパク質の量が変化してアレルギー物質が増減するというのはおかしいのですよ。
「アレルギー物質が含まれない」という記述が間違っていて「アレルギー物質がすくない」が正しいと思われる。

品種登録迅速化総合電子化システム」を見ると案の定「グルテリン含量が低い」とありますね。
編集者さんよ、校正しようよ。これは別に米に対する知識なしで指摘できます。
それに「LGC潤」ではないですね。正しくは「エルジーシー潤」です。

農薬や肥料を一切使わない農法として、「自然栽培」があります。
自然栽培では、あぜ道の草や田んぼに生える雑草などを土にすり込んだり、田んぼに生息する微生物などを使って土を活性化させ、それを肥料の代わりにしてお米を育てたりします。
それは「緑肥」と呼ぶ立派な「肥料」です。
「あぜ道の草」は窒素・リン酸・カリ肥料になるし、「田んぼに生える雑草」は窒素肥料になります。
田んぼに春レンゲを植えるのは窒素肥料にするためです。レンゲは根粒菌が共生するマメ科なので利用されてきました。

機械化やICT(情報通信)技術を使った新しい米づくりが各方面で行われるようになりました。
著者および編集者がICTに弱いことがよくわかります。
ICTは「Information and Communication Technology」の略で日本語にすると「情報通信技術」であり「情報通信」ではありません。

経営規模が大きくなると機械化や田んぼの集約化などで仕事効率が良くなり、労働時間も短くなる傾向があるようです。
「米ビジネス」と冠しているくせにダメだダメですね。
因果が逆です。合筆などしていないと規模拡大できないので、先に集約化などすべきです。
「先に規模拡大する=計画不良」であり早々に行き詰まるでしょう。ビジネスとしてやることではない。

読み始めるとすぐに胡散臭い記述にぶつかったので、それ以降はパラパラとめくって怪しいところにツッコみました。
単なる米コンテストの審査員であり、米ビジネスについては疎いことがわかります。
得るところはなく残念な本でした。

米ビジネス
芦垣裕
クロスメディア・パブリッシング
2024/9/13

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