東大教授よ、まずは正しい数値・正しい比較対象を示そう!
東大の鈴木宣弘特任大学教授が次のようなコラムを出しているのでツッコミます。
「【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如|JAcom 農業協同組合新聞」
「20ha以上になると60kg当たり生産費が上昇し始める」
とあるが、グラフで生産費が上昇し始めるのは30ha以上です。
細かいところを指摘すると「グラフのように・・・60kg当たり生産費」とあるが、グラフは 10a 当たりの生産費であり、説明に誤りがあります。
農業協同組合新聞は、こんなあからさまな間違いも素通しするほどの編集者は低質なのでしょうか?
本題に入ります。
示されたURLを見ると確かにそのグラフはある。
「令和4年産 米生産費(個別経営体):農林水産省」
では鈴木教授のいうことは正しいのだろうか?
示されたグラフを見ると下げ止まるのではなく上昇しているのが、どうも胡散臭い。
ということで、元データを見てみました。
元データは「統計データを探す | 政府統計の総合窓口」の「3-1米の作付規模別生産費 - 生産費[10a当たり]」から見られます。
見てみると、「賃借料及び料金」と「農機具費」にあからさまな外れ値が見られます。
「賃借料及び料金」は、常識的に大規模になれば賃料が下がると思われるがそれに大いに反している。
「農機具費」も規模が多くなれば下がり、どこかで下げ止まることが想定される。
鈴木教授が示した令和4年に加え前年分を表にしてみた。
※背景黄色部分が外れ値を含む
母数が少ないので、外れ値の影響がもろに出ています。30.0ha以上は50件以下(例えば、令和3年の50.0ha以上はたった4件)のため、それを理解した上で見る必要がある。
以下は令和3年のグラフですが、一般常識と合致したものでしょう。
「規模拡大しても効率化できずにコストが下がらなくなる」という鈴木教授の主張はミスリードだとわかりました。
もちろんどこかで頭打ちになるだろうが、それは見えている範囲では起きていない。
これは事実でしょうか?
以前「世界で最初に飢えるのは日本」という鈴木教授のデマ本に似たようなことが書かれていたのでツッコミましたが、より直接な証拠を見つけたので紹介します。
先ほども登場した「農業経営統計調査」の「米の作付規模別生産費 - 調査対象経営体の生産概要・経営概況 」に面白いデータがありました。
50ha以上の統計値から1経営体当たりのデータを抽出しました。
水稲の作付地:106.1 ha
田の団地数:22.0 団地
ほ場枚数:400.5 枚
400.5 枚だから鈴木教授の「水田が100か所以上に分散している」は正しいじゃないか!とはなりません。
団地の定義を見ると「田の経営耕地のうち、作業単位としている田の団地の数。田の団地とは、地続きの耕地の一団であって、その耕地に田を含む団地をいう」とあります。
鈴木教授は「分散している」と言っているので、分散しているのは団地間の話であって、団地内のほ場ではありません。
使うべき数字は 22.0 です。
鈴木教授 :日本にも100haの稲作経営もあるが、水田が100か所以上に分散している
正しい情報:日本にも100haの稲作経営もあるが、水田が20か所程度に分散している
水田と小麦の圃場面積を比較するなど東京大学の農学教授とは思えないですね。
水田は当たり前ですが水を張らないといけないので一区画当たりの面積は小麦と比べて狭くなります(無理に広げると水位が端と端でまるで違うことになり、いろいろ不都合が出ることは容易に想像できる)。
比較できないものを比較してナンセンスだと言っているのです。
わかりやすい例を示しましょう。
日本の水田と園芸農業(例えばブドウ)の1経営体当たりの面積を比較して、コメ > ブドウ だからブドウに競争力がないと言っているのに等しい。
異なるものを比較しても議論になりません。
オーストラリアの水田は多くないのでアメリカと比較します。
先ほど出てきた「水稲の作付地:106.1 ha、ほ場枚数:400.5 枚」のデータを使いましょう。
1枚あたりは 0.26 ha。
アメリカの1枚当たりの統計値は見つけられませんでしたが、次のコメのコストを試算した資料に1枚20エーカーとあります。
「2022 Sample Costs to Produce Rice, Delta Region of San Joaquin & Sacramento Counties, San Joaquin Valley North, Continuous Rice Production」
20エーカー≒ 8ha なので、日本:アメリカ=0.26:8で、アメリカは日本の約30倍の規模となります(北海道限定では約13倍)。
鈴木教授は100haで100か所以上に分散していると言っているので、日本:オーストラリア=1ha:100haで100倍の規模があると言っています。
アメリカにおいては田植えではなく直播(種籾を直接田んぼにまく)がほとんどで、しろかきもしない場合がある。
逆にほぼ日本は田植え+しろかきなので、その分コストがかかっています。
直播は北海道で2.91%、全国平均で1.37%です(調査対象経営体の生産概要・経営概況より)。
アメリカと日本で差があるのはわかっているので、その差を正しく理解した上でどうするかを考えるべきです。
異なるものと比較してナンセンスだというのはナンセンスです。
「【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如|JAcom 農業協同組合新聞」
20haで効率化は頭打ちどころか悪化?
日本にも100haの稲作経営もあるが、水田が100か所以上に分散している。ぱっと見ただけで分かる間違いを先ず示しましょう。
規模拡大しても効率化できずにコストが下がらなくなる(グラフのように20ha以上になると60kg当たり生産費が上昇し始める)。
「20ha以上になると60kg当たり生産費が上昇し始める」
とあるが、グラフで生産費が上昇し始めるのは30ha以上です。
細かいところを指摘すると「グラフのように・・・60kg当たり生産費」とあるが、グラフは 10a 当たりの生産費であり、説明に誤りがあります。
農業協同組合新聞は、こんなあからさまな間違いも素通しするほどの編集者は低質なのでしょうか?
本題に入ります。
示されたURLを見ると確かにそのグラフはある。
「令和4年産 米生産費(個別経営体):農林水産省」
では鈴木教授のいうことは正しいのだろうか?
示されたグラフを見ると下げ止まるのではなく上昇しているのが、どうも胡散臭い。
ということで、元データを見てみました。
元データは「統計データを探す | 政府統計の総合窓口」の「3-1米の作付規模別生産費 - 生産費[10a当たり]」から見られます。
見てみると、「賃借料及び料金」と「農機具費」にあからさまな外れ値が見られます。
「賃借料及び料金」は、常識的に大規模になれば賃料が下がると思われるがそれに大いに反している。
「農機具費」も規模が多くなれば下がり、どこかで下げ止まることが想定される。
鈴木教授が示した令和4年に加え前年分を表にしてみた。
※背景黄色部分が外れ値を含む
区分 | 年 | 0.5ha未満 | 0.5~1.0 | 1.0~3.0 | 3.0~5.0 | 5.0~10.0 | 10.0~15.0 | 15.0~20.0 | 20.0~30.0 | 30.0~50.0 | 50.0ha以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
賃借料及び料金 | 令和3年 | 24,892 | 23,589 | 13,102 | 8,441 | 7,410 | 8,321 | 4,748 | 3,211 | 2,456 | 4,951 |
令和4年 | 27,093 | 23,925 | 12,133 | 8,549 | 7,706 | 7,200 | 5,855 | 3,688 | 3,566 | 37,239 | |
農機具費 | 令和3年 | 36,939 | 28,104 | 26,177 | 24,610 | 19,442 | 22,462 | 17,535 | 19,806 | 17,367 | 9,190 |
令和4年 | 33,218 | 24,783 | 29,083 | 25,236 | 20,003 | 22,577 | 18,824 | 18,282 | 21,558 | 10,259 | |
全生産費 | 令和3年 | 213,015 | 168,605 | 137,149 | 115,880 | 109,490 | 105,014 | 96,517 | 99,055 | 91,293 | 78,754 |
令和4年 | 207,198 | 167,009 | 139,379 | 120,379 | 106,250 | 108,590 | 98,596 | 95,297 | 97,721 | 106,973 |
母数が少ないので、外れ値の影響がもろに出ています。30.0ha以上は50件以下(例えば、令和3年の50.0ha以上はたった4件)のため、それを理解した上で見る必要がある。
以下は令和3年のグラフですが、一般常識と合致したものでしょう。
「規模拡大しても効率化できずにコストが下がらなくなる」という鈴木教授の主張はミスリードだとわかりました。
もちろんどこかで頭打ちになるだろうが、それは見えている範囲では起きていない。
正しい数値を示せ!
先ほど引用したところに「日本にも100haの稲作経営もあるが、水田が100か所以上に分散している」とありました。これは事実でしょうか?
以前「世界で最初に飢えるのは日本」という鈴木教授のデマ本に似たようなことが書かれていたのでツッコミましたが、より直接な証拠を見つけたので紹介します。
先ほども登場した「農業経営統計調査」の「米の作付規模別生産費 - 調査対象経営体の生産概要・経営概況 」に面白いデータがありました。
50ha以上の統計値から1経営体当たりのデータを抽出しました。
水稲の作付地:106.1 ha
田の団地数:22.0 団地
ほ場枚数:400.5 枚
400.5 枚だから鈴木教授の「水田が100か所以上に分散している」は正しいじゃないか!とはなりません。
団地の定義を見ると「田の経営耕地のうち、作業単位としている田の団地の数。田の団地とは、地続きの耕地の一団であって、その耕地に田を含む団地をいう」とあります。
鈴木教授は「分散している」と言っているので、分散しているのは団地間の話であって、団地内のほ場ではありません。
使うべき数字は 22.0 です。
鈴木教授 :日本にも100haの稲作経営もあるが、水田が100か所以上に分散している
正しい情報:日本にも100haの稲作経営もあるが、水田が20か所程度に分散している
正しい比較対象を示せ
写真のように、豪州は1面1区画の圃場が100haで、まったく別世界だ。コスト下げて輸出拡大すればよいという議論にも限界がある。「写真のように」とあるのはオーストラリアの小麦畑のことです。
そもそも、稲作農家が赤字で激減しそうなときに輸出でバラ色かのような議論はナンセンスである。
水田と小麦の圃場面積を比較するなど東京大学の農学教授とは思えないですね。
水田は当たり前ですが水を張らないといけないので一区画当たりの面積は小麦と比べて狭くなります(無理に広げると水位が端と端でまるで違うことになり、いろいろ不都合が出ることは容易に想像できる)。
比較できないものを比較してナンセンスだと言っているのです。
わかりやすい例を示しましょう。
日本の水田と園芸農業(例えばブドウ)の1経営体当たりの面積を比較して、コメ > ブドウ だからブドウに競争力がないと言っているのに等しい。
異なるものを比較しても議論になりません。
オーストラリアの水田は多くないのでアメリカと比較します。
先ほど出てきた「水稲の作付地:106.1 ha、ほ場枚数:400.5 枚」のデータを使いましょう。
1枚あたりは 0.26 ha。
アメリカの1枚当たりの統計値は見つけられませんでしたが、次のコメのコストを試算した資料に1枚20エーカーとあります。
「2022 Sample Costs to Produce Rice, Delta Region of San Joaquin & Sacramento Counties, San Joaquin Valley North, Continuous Rice Production」
20エーカー≒ 8ha なので、日本:アメリカ=0.26:8で、アメリカは日本の約30倍の規模となります(北海道限定では約13倍)。
鈴木教授は100haで100か所以上に分散していると言っているので、日本:オーストラリア=1ha:100haで100倍の規模があると言っています。
アメリカにおいては田植えではなく直播(種籾を直接田んぼにまく)がほとんどで、しろかきもしない場合がある。
逆にほぼ日本は田植え+しろかきなので、その分コストがかかっています。
直播は北海道で2.91%、全国平均で1.37%です(調査対象経営体の生産概要・経営概況より)。
アメリカと日本で差があるのはわかっているので、その差を正しく理解した上でどうするかを考えるべきです。
異なるものと比較してナンセンスだというのはナンセンスです。
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