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ネオニコチノイド系農薬(殺虫剤)について「みんなで選ぼう ネオニコフリー!」というデタラメな動画を見つけたのでツッコミます。



残留性が高い?

土や水の中に長く残って・・・
ネオニコは他の農薬と比べて残留性が高いのだろうか?

農薬出荷量20位以上(2020年)の化学合成農薬とネオニコの水・土における半減期
これは、農薬出荷量を「化学物質DB/Webkis-Plus 農薬出荷量の検索 <都道府県×年度>」、それ以外を農薬評価書をもとにして作りました。

半減期の平均(1日未満は全て1日に丸める)は、
水中光分解試験で、非ネオニコで112日、ネオニコで57日
土壌残留試験で、非ネオニコで20日、ネオニコで37日
でした。

それぞれで、最も長い一つを除外すると
水中光分解試験で、非ネオニコで23日、ネオニコで14日
土壌残留試験で、非ネオニコで8日、ネオニコで28日
でした。

このことから、特段にネオニコが「土や水の中に長く残る」というわけではないと言えます。

神経系

昆虫も、ヒトも神経系の基本は同じです
「生物にはDNAがあるから昆虫もヒトも同じです」というくらい意味のないことを言っていますね。
基本的に同じであるのならば、農薬散布なんて危なっかしくてできません。

基本的な違いとして、中枢神経系における主要伝達物質は、昆虫ではアセチルコリン優位だが、ヒト(脊椎動物)ではグルタミン酸優位となっています。

そんな馬鹿な話があるか!

お母さんが口にしたネオニコチノイド系農薬は1時間後に90%がお腹の赤ちゃんに移行してしまいます。
母親が経口摂取したネオニコチノイド系農薬が胎児に選択的に移行するなんてあり得ないし、そのような論文は見つからなかった。

Quantitative elucidation of maternal-to-fetal transfer of neonicotinoid pesticide clothianidin and its metabolites in mice - ScienceDirect(全文はこちらから見られる)」
この論文あたりの情報を誤って記しただろうことが推察されます。

この論文はマウスを使った実験に関するもので、クロチアニジンが胎児の血液中に、母親の血液中の85.0%の濃度で存在していたことを示しています。
動画では濃度を四捨五入して90%としたのでしょう。

実際に母体が経口摂取したものが胎児に移行しうるか、簡易的な計算してみましょう。
クロチアニジンの農薬評価書の数字をベースに計算します。

吸収率は 94.0~99.7%のため、高い方の99.7%を使う。
「尿中に 92.0~95.8%TAR、糞中に 4.4~6.0%TAR」とあるので、尿・糞で排出される量は少なく見積もって96.4%。
胎児は母体の 1.9 倍速く代謝する(こちらこちら参照)
仮に母体の体重が50kg、胎児は3kgとする。

0.997(母親の経口摂取したクロチアニジンの吸収率) × 0.85(母体との血中濃度比) × (1 - 0.964)(尿・糞で排出されない割合) × 1.9(母体より代謝が速い) × 3/50(母体との体重比)
=0.35%
※計算上、経過時間は無視している

誤:お母さんが口にしたネオニコチノイド系農薬は1時間後に90%がお腹の赤ちゃんに移行してしまいます。
正:お母さんが口にしたネオニコチノイド系農薬は1時間後に0.35%がお腹の赤ちゃんに移行してしまいます。

不適切な実験を持ち出されても困ります

そのくらいなら大丈夫といわれる少ない量でもネズミの実験では3世代先まで影響します。
3世代後で影響があるというチアクロプリドに関する論文を見てみました。

Transgenerational epigenetic effects imposed by neonicotinoid thiacloprid exposure - PMC
Sex-specific transgenerational effects on murine thyroid gland imposed by ancestral exposure to neonicotinoid thiacloprid | Scientific Reports

両方に共通するダメな点を指摘します。

・ラットの使用を推奨されているがマウスを使っている。
・マウスにおける無毒性量は 6 mg/kg 体重/日 であり、実験では 0, 0.6, 6 の濃度を使っている。
 ADIは 0.012 mg/kg 体重/日 であり実際のヒトでの曝露量より極端に高い濃度を使っている。
 ちなみに、実際のヒトの曝露量は高くても ADI の数パーセント。
・F1で影響がないのにF3が出ていたり、0.6 と 6 の影響の出方が逆転していたり、その現象を説明できない。

不適切な実験なのでヒトに影響があるとは言えません。

デマ屋はADIの話をしない

残念ながら日本の農薬基準はとてもゆるいのです。
ネオニコチノイド系農薬のひとつアセタミプリドという成分の残留基準はイチゴがEUの6倍アメリカの5倍、リンゴがEUの5倍アメリカの25倍、お茶がEUの600倍、ほうれん草の残留基準は2015年に13倍も緩くなりました。
農薬残留基準は農薬の使用基準であり、安全性についての基準ではありません。
安全性についてはADIを見る必要がありますが、デマ屋はADIに触れません。
2018年にEUは0.005 mg/kg 体重/日 に変えたが、それまでは 0.07 mg/kg 体重/日 で日米EUともにほぼ同じでした。

日本のADIはEUの14倍高いじゃないか!といっても意味はありません。
令和4年度 食品中の残留農薬等の一日摂取量調査結果」によると、日本ではADIの0.046%しか摂取しておらず、それはEUのADIの0.6%でしかなく、何の問題もありません。

ADIに問題がないので、農薬残留基準に触れるのは馬鹿らしいですが、言及しておきましょう。

次のようにものによって大小があるのは当たり前です。EUのアスパラガスは危険だと言いますか?
食品日本EU
みかん0.50.9
アスパラガス0.50.8
牛の肝臓0.21.0


また、農薬残留基準はADIに収まるようにちょくちょくいじるので、緩和された!というだけ意味はない。
繰り返しになるがADIの変化を見るべきなのです。

相関すらない

発達障害の原因はたくさんありますが農薬使用量との関係は無視できません
無視できるかどうかは個人のお気持ちですが、科学的には無視できます。
なぜならば、ネオニコと発達障害には相関すらないのですから。

よくあるオーガニックデマ

できるだけネオニコチノイド系農薬を使わないものやオーガニックの食べ物を選んで買えば体も自然も守ることができます
オーガニックで健康になるというエビデンスはありません。
詳細は「有機農産物には栄養と健康上の利点があるのか?|Fukano Yuya」を参照してください。

「オーガニックの食べ物を選んで買えば自然も守る」も必ずしも正しくはありません。
単位面積当たりの環境負荷は増えます。無農薬であるのならば昆虫などへの影響は少ないでしょうが、有機農業で使う農薬だと慣行農業で使うものとどれほど違うかはわかりません。


たかだか3分の動画にこれほどデマを混ぜ込んでくる「生協ネットワーク21」は流石ですね。

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