東大特任教授による日米貿易協定デマ

東大鈴木宣弘特任教授が第一次トランプ政権時の日米貿易協定についてコラムを書いていたのでツッコミます。
「【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】前回のトランプ政権との日米貿易交渉の失敗に学べるか(1)|JAcom 農業協同組合新聞」
1 米国は自動車関税の撤廃を約束した。
上記のサブタイトルはコラムのものを使っています(以降同様)。
赤字の部分はミスリードまたは事実に反します。
これを気をつけて読まないと「日本は合意文書を今でも公開していない」と受け取ってしまう可能性が高い(私は最初そのように読んだ)。
しかし、現在貿易協定の合意文書は「日米貿易協定|外務省」で開示されています。
国会承認前の2019年10月15日の「日米貿易協定 | 外務省」を見ると見事に文書があります。
2019年9月25日には、合意文書ではないが概要を記した文書は公開している。
「日米貿易協定・日米デジタル貿易協定 |TPP等政府対策本部」
この中の日米貿易協定、日米デジタル貿易協定の概要には次のように書かれている。
当時の安倍首相も国会で次のように発言していて、「自動車関税の撤廃は約束された」とは言っていない。
2 米国の関税撤廃率は92%で国際法上問題のない高い貿易カバー率が確保できた。
「日米貿易協定と日米デジタル貿易協定―概要と論点―」によると違反の可能性を指摘しています。
では、50%が史上最悪なのか?
「アジア太平洋貿易協定 - Wikipedia」は、「Asia-Pacific Trade Agreement : an evolving preferential regional trade agreement」によると、品目ベースの平均で 31.73% とのこと(金額ベースの情報はないが、25%を目指すと書かれている)。
仮に、日米の協定が違反であったとしても史上最悪ではない。
3 日本からの牛肉輸出をTPP(環太平洋連携協定)以上に勝ち取った。
「日本からの牛肉輸出をTPP(環太平洋連携協定)以上に勝ち取った。」と政府関係者が言ったというのは確認できない。
安倍晋三首相は国会で次のように言っていて、TPPとは比較していない(他の発言を見ても同様)。
茂木外務大臣も次のように現状との比較しかしていない。
そもそも、「TPP合意で得たものを失った」というが、アメリカはTPPに参加しなかったので失ったことにならない。
合意内容については「農林水産品関連合意の概要」参照。
4 米国からの牛肉輸入はTPP合意にとどめられた。
先ほどの茂木外務大臣の会見から該当部分を引用します。
しかも鈴木氏は次のようにも書いている。
「日米貿易協定の概要 米国大使館農務部」には次のようにあるだけで、そんなことは書いていない。
セーフガードに関する付属文書でも協議をするとしか書かれていない。5 コメや乳製品は勝ち取った。
そのような内容は、協定本文・サイドレターともに無い。
似たような表現は「U.S.-Japan Trade Agreement Negotiations | United States Trade Representative」にある「Summary of Specific Negotiating Objectives(具体的な交渉目標の概要)」に次のように書かれている。
6 自動車のために農業を差し出し続けることはない。
下線部分は、「渋谷政策調整統括官による事務ブリーフ概要」にある内容なので、それ自体は事実です。
比較できない数字を比較していて笑えますね。
日本の82%⇒40%(37%)とアメリカの99%⇒1%は比較できない数字です。
日本の40%(37%)はもともと関税ゼロのを含んだものですが、アメリカの1%は日米貿易協定で関税ゼロになった分であり、比較できる数字ではない。
日米の両方で関税の決まりがある農産品1428品目の内、アメリカの税率がゼロなのは648品目なので、45%は関税ゼロなのです(2022年のデータ。詳細はこちら参照。)。
そのため、99%⇒1%というのは丸っきりのデタラメです。
そもそも《つまり、「自動車のために農産物をさらに差し出す」ことを認めている》と言っているが、TPPはオバマ大統領が署名して議会承認待ちだったので、TPPレベルまで行くことは「農産物をさらに差し出す」とは言わない。
TPPレベルよりも自由化が進んだら「農産物をさらに差し出す」と言えるかもしれない。
7 25%の自動車関税の非発動は約束された。
確かに、「協定のいかなる~」に相当するのは日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定の第四条にあります。
しかし、WTO協定の「第二十一条 安全保障のための例外」に同様のものがあるので、日米貿易協定の有無にかかわらず25%にする根拠はあるのだ(それが認められるかは別の問題)。
そのため、日米貿易協定の第四条を理由に「25%の自動車関税の非発動は約束されていない」と言っても意味がない。
そんなことを言ったら、全ての貿易協定で何も約束されていないことになってしまう。
8 日米協定はウィン・ウィンである。
「農林水産品関連合意の概要」見てもらえば、額としては大したことはないが、醤油・盆栽・柿・メロンなどの関税は下がるか撤廃されている。
そのため「日本が失っただけである」は事実ではない。
今までのデタラメを見てもらえばわかるが、それらを理由に何かを主張されても困る。
正しい主張をしたければ、正しい事実を先ずは提示しなさいな。
そもそも、国力が違い、貿易関係ではアメリカの方が圧倒的に有利なので、本当の意味のウィン・ウィンになるわけがない。
もしも、農業経済学が専門の鈴木教授が、本当にそうなり得ると思っているとしたら、小学生社会科からやり直してきなさい、となる。
「【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】前回のトランプ政権との日米貿易交渉の失敗に学べるか(1)|JAcom 農業協同組合新聞」
1 米国は自動車関税の撤廃を約束した。
→していない。
上記のサブタイトルはコラムのものを使っています(以降同様)。日本側は合意文書を開示せず、「時期は決まっていないが自動車関税の撤廃は約束された」と説明して署名したが、署名後に公にされた米国側の約束文書(英文、邦訳は出さず)には「自動車関税の撤廃についてはさらなる交渉次第」(Customs duties on automobile and auto parts will be subject to further negotiations with respect to the elimination of customs duties)とあり、これが関税撤廃の約束なら「天地がひっくり返る」。これはコラムの最初の一文ですが、最初からフルスロットルですね。
赤字の部分はミスリードまたは事実に反します。
これを気をつけて読まないと「日本は合意文書を今でも公開していない」と受け取ってしまう可能性が高い(私は最初そのように読んだ)。
しかし、現在貿易協定の合意文書は「日米貿易協定|外務省」で開示されています。
令和元年10月7日 ワシントンDCで署名鈴木氏が「日本側は合意文書を開示せず」ではなく「日本側は合意文書を署名前に公開せず」と書いていたのならば正しいが、そうではない。
令和元年12月4日 国会承認
令和元年12月10日 両国間で相互の通告を実施(於:ワシントンDC)
令和元年12月13日 公布及び告示(条約第10号及び外務省告示第244号)
令和2年1月1日 効力発生
国会承認前の2019年10月15日の「日米貿易協定 | 外務省」を見ると見事に文書があります。
2019年9月25日には、合意文書ではないが概要を記した文書は公開している。
「日米貿易協定・日米デジタル貿易協定 |TPP等政府対策本部」
この中の日米貿易協定、日米デジタル貿易協定の概要には次のように書かれている。
自動車・自動車部品については、米国附属書に「関税の撤廃に関して更に交渉」と明記「時期は決まっていないが自動車関税の撤廃は約束された」というのもデタラメであることがわかります。
当時の安倍首相も国会で次のように発言していて、「自動車関税の撤廃は約束された」とは言っていない。
自動車・自動車部品については、今回の協定では、単なる交渉の継続ではなく、さらなる交渉による関税撤廃を明記いたしました。
具体的な関税撤廃期間については今後の交渉となりますが、自動車については、電動化、自動走行による大変革期にあり、さまざまな部品構成やその重要度も変わっていく可能性が高いことなども踏まえ、このような状況を見きわめながら、今後、最善の結果が得られるよう、協議を行っていく考えであります。
2 米国の関税撤廃率は92%で国際法上問題のない高い貿易カバー率が確保できた。
→50%台の史上最悪の国際法違反協定である。
「日米貿易協定と日米デジタル貿易協定―概要と論点―」によると違反の可能性を指摘しています。では、50%が史上最悪なのか?
「アジア太平洋貿易協定 - Wikipedia」は、「Asia-Pacific Trade Agreement : an evolving preferential regional trade agreement」によると、品目ベースの平均で 31.73% とのこと(金額ベースの情報はないが、25%を目指すと書かれている)。
仮に、日米の協定が違反であったとしても史上最悪ではない。
3 日本からの牛肉輸出をTPP(環太平洋連携協定)以上に勝ち取った。
→TPP合意で得たものを失った。
「日本からの牛肉輸出をTPP(環太平洋連携協定)以上に勝ち取った。」と政府関係者が言ったというのは確認できない。安倍晋三首相は国会で次のように言っていて、TPPとは比較していない(他の発言を見ても同様)。
今回の貿易協定では、農林水産物について、過去の協定で約束したものが最大限であるとした昨年九月のトランプ大統領との共同声明に沿った結論が得られました。とりわけ我が国にとって大切な米について、関税削減の対象から完全に除外いたしました。さらには、米国への牛肉輸出に係る低関税枠が大きく拡大するなど、新しいチャンスも生まれています。
茂木外務大臣も次のように現状との比較しかしていない。
また,我が国の農産品の輸出促進に資するため,日本から米国向けの牛肉について,現行の日本枠200tと現行で64,805tあります複数国(その他国)枠を合わせた,65,005tの低関税枠へのアクセスを確保いたしました。現状より300倍以上の拡大ということになるわけであります。
そもそも、「TPP合意で得たものを失った」というが、アメリカはTPPに参加しなかったので失ったことにならない。
合意内容については「農林水産品関連合意の概要」参照。
4 米国からの牛肉輸入はTPP合意にとどめられた。
→TPP超えである。
先ほどの茂木外務大臣の会見から該当部分を引用します。牛肉については,関税削減はTPPと同様であります。セーフガードについては,TPPではTPPワイドで発動基準が規定されていることから,米国にそのまま適用できないわけでありまして,交渉の末,米国に対する発動基準数量を,2020年度で24万2千tと,2018年度の米国からの輸入実績の25万5千tを下回る数字とすることで合意をいたしました。なお,2023年度以降については,TPP11協定が修正されていれば,米国とTPP11締約国からの輸入を合計して,TPP全体の発動基準数量を適用する方式に移行する方向で協議をすることとしております。削減される関税が同様(最終税率が9%で一緒という意味だと思う)としか言っておらず、「TPP合意にとどめられた」とは言っていない。
しかも鈴木氏は次のようにも書いている。
しかも、驚くべきことに、枠を超過して高関税への切換えが発動されたら、それに合わせて枠を増やして発動されないようにしていく約束もしていることが付属的な文書(サイドレター)で後から判明した。これでは、もはや一定以上の輸入を抑制するセーフガードではなく、米国からの牛肉輸入を低関税でいくらでも受け入れていくことになる。セーフガードの枠を増やして発動されないようにするとサイドレターで約束したと大嘘を書いています。
「日米貿易協定の概要 米国大使館農務部」には次のようにあるだけで、そんなことは書いていない。
セーフガードが発動された場合、発動基準数量が両国の協議のうえで発動基準数量が見直される可能性がある
セーフガードに関する付属文書でも協議をするとしか書かれていない。
If the agricultural safeguard measure is imposed, the United States and Japan shall enter into consultations to adjust the applicable safeguard trigger levels of that safeguard measure to higher levels.
農業セーフガード措置が課された場合、日本国及び米国は、当該セーフガード措置の適用されるセーフガード・トリガー・レベルをより高いレベルに調整するための協議を行う。
5 コメや乳製品は勝ち取った。
→先送りされただけである。
奇妙なことに、日本側の約束内容に「米国は将来の交渉において農産物に対する特恵的な待遇を追求する」という米国側の強い意思表明が組み込まれている。日本が一層の譲歩を認めたわけではないというが、日本の合意内容の箇所に書いてあるのだから、位置づけは重い。よくもこうもデタラメを書けるなと感心する。
そのような内容は、協定本文・サイドレターともに無い。
似たような表現は「U.S.-Japan Trade Agreement Negotiations | United States Trade Representative」にある「Summary of Specific Negotiating Objectives(具体的な交渉目標の概要)」に次のように書かれている。
Secure comprehensive market access for U.S. agricultural goods in Japan by reducing or eliminating tariffs.文書の名前からわかるように、単なるアメリカ側の交渉目標であり、何かしらの合意をしたわけではない。
関税の削減または撤廃により、日本における米国産農産物の包括的な市場アクセスを確保する。
6 自動車のために農業を差し出し続けることはない。
→差し出し続ける。
記者会見で日本政府は米国との今後の自動車関税撤廃の交渉にあたり、「農産品というカードがない中で厳しい交渉になるのでは」との質問に答えて「農産品というカードがないということはない。TPPでの農産品の関税撤廃率は品目数で82%だったが、今回は40%いかない(注)」、つまり、「自動車のために農産物をさらに差し出す」ことを認めている。やっと主題に関する部分でまともな引用がされていますね。
(注) 実際には37%。総品目(タリフライン)数 2594のうち1634が除外。農の総品目数1332、林・水1262。林・水はすべて除外なので、1634-1262=372 が農の除外品目。つまり、農業だけの関税撤廃率72%と思われる。一方、「米国が関税撤廃した農産品は19品目にすぎず、関税撤廃率はTPPの99%からわずか1%へ激減した」(作山巧・明治大学教授)
下線部分は、「渋谷政策調整統括官による事務ブリーフ概要」にある内容なので、それ自体は事実です。
比較できない数字を比較していて笑えますね。
日本の82%⇒40%(37%)とアメリカの99%⇒1%は比較できない数字です。
日本の40%(37%)はもともと関税ゼロのを含んだものですが、アメリカの1%は日米貿易協定で関税ゼロになった分であり、比較できる数字ではない。
日米の両方で関税の決まりがある農産品1428品目の内、アメリカの税率がゼロなのは648品目なので、45%は関税ゼロなのです(2022年のデータ。詳細はこちら参照。)。
そのため、99%⇒1%というのは丸っきりのデタラメです。
そもそも《つまり、「自動車のために農産物をさらに差し出す」ことを認めている》と言っているが、TPPはオバマ大統領が署名して議会承認待ちだったので、TPPレベルまで行くことは「農産物をさらに差し出す」とは言わない。
TPPレベルよりも自由化が進んだら「農産物をさらに差し出す」と言えるかもしれない。
7 25%の自動車関税の非発動は約束された。
→されていない。
米国は国家安全保障を名目にして自動車関税の25%への引上げをWTO違反ではないと正当化しようとしてきた。今後は25%関税は発動しない約束ができたと日本側は説明しているが、協定本文に「協定のいかなる規定も安全保障上の措置をとることを妨げない」とある。これは、安全保障を理由にした自動車への25%関税の発動根拠になりうる。アホですね。
確かに、「協定のいかなる~」に相当するのは日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定の第四条にあります。
しかし、WTO協定の「第二十一条 安全保障のための例外」に同様のものがあるので、日米貿易協定の有無にかかわらず25%にする根拠はあるのだ(それが認められるかは別の問題)。
そのため、日米貿易協定の第四条を理由に「25%の自動車関税の非発動は約束されていない」と言っても意味がない。
そんなことを言ったら、全ての貿易協定で何も約束されていないことになってしまう。
8 日米協定はウィン・ウィンである。
→日本が失っただけである。
「農林水産品関連合意の概要」見てもらえば、額としては大したことはないが、醤油・盆栽・柿・メロンなどの関税は下がるか撤廃されている。そのため「日本が失っただけである」は事実ではない。
今までのデタラメを見てもらえばわかるが、それらを理由に何かを主張されても困る。
正しい主張をしたければ、正しい事実を先ずは提示しなさいな。
そもそも、国力が違い、貿易関係ではアメリカの方が圧倒的に有利なので、本当の意味のウィン・ウィンになるわけがない。
もしも、農業経済学が専門の鈴木教授が、本当にそうなり得ると思っているとしたら、小学生社会科からやり直してきなさい、となる。
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