コメ壊滅?信用壊滅?

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コメ壊滅」(山口亮子)を読みました。

山口さんの本は何冊か過去に読みましたが、本作は時流に乗って売るためにやっつけ仕事をした感じで、残念な内容でした。

序 章 1年で3兆円が消えた
第1章 農相が吐いた「七つの大嘘」
第2章 高すぎて消えていく需要
第3章 減反の罪
第4章 農業ムラが潰したコメ市場
第5章 空転する輸出戦略
第6章 コメ不足を招く「三高」
終 章 小泉劇場という茶番

序 章 1年で3兆円が消えた

───3兆円。
わずか1年の間に「令和のコメ騒動」で国民が被った損害額である。私が試算したものだ。具体的には、米価が上がったことにより国民が多めに払った額と、価格を上げる結果を招いた予算額の合計である。
消費者の負担した額が増えたのは確かだ。本の帯にも3兆円のことは書かれているが、それを「損害」と呼ぶのは適切なのだろうか?
原油など輸入資源のコスト増加で3兆円分高くなったのならば「損害」と言っても良いが、主に国内で回るお金を「損害」と呼ぶことには違和感がある。

「縁故米」という親族や知人から無償でもらうコメは例年、精米で購入する入手方法のおよそ15%を占める。
縁故米って親類などの縁故関係で流通する米であり、有償(低価格)・無償に関係ないと思っていたが、狭義の縁故米は無償のようだ。
農林水産省の「米トレーサビリティ制度Q & A」を見ると「 縁故米(無償譲渡米)」とあった。

第1章 農相が吐いた「七つの大嘘」

米価の高さに目を付けた新規参入者が増えたのは確かだろうが、彼らが買い付ける量は微々たるものだ
新規参入による買い付けが微々たるものであると断言しているが、その根拠が示されていない。
もし、この本がファクトチェックされたら「根拠不明」と判断されるものでしょう。

特に2024年産では、コメの主産地である北関東の農家から「全然とれていない」などと、不作を嘆く声がよく聞かれた。
高温障害に関係する話でこの文章があります。
イナゴの大群にやられたのならばいざ知らず、仮に「全然とれていない」と言った人がいたとしても、それをそのまま載せるのはいかがなものか。

第2章 高すぎて消えていく需要

コメの需要は毎年10万トンのペースで減っている。農林水産省はこう決めてかかりこそすれ、需要を増やせる可能性を検討してこなかった
「需要を増やす努力が足りなかった」ならばわからんでもないが、検討していないはないでしょう。

例えば2019年のこれでは、「米消費拡大の取組」なんて書いてある。

酒米は、一般的なコメより大粒で、中心の核となる白濁した心白があり、かつタンパク含有量が少ない。
・・・
ところが2025年産は2024年産より減る見込み。主食用米が高騰していて、会員が酒造好適米の作付けを減らすからだ。
たとえば2024年産では、新潟県産の酒米「五百万石」は60キロ当たり1万5300円だった。ところが主食用「コシヒカリ」は2万円を優に超えてきた。
「こうなると主食用に流れるのは仕方ない」(豊永社長)
それはほかの用途のコメも同じである。もち米などの加工用米も減り、米粉用米に至っては皆無になった。会員は主食用米を高値で買い取ってくれる卸との契約を増やしており、同社の集荷量が落ちるのは必至だ。
「米粉用米に至っては皆無になった」は、全国のことを言ってると思ったが、よくよく読むと豊永社長の会社のことでした。
豊永社長は、有限会社エコ・ライス新潟の代表です。
エコ・ライス新潟 | 当社商品「米粉のクッキー」終売についてを見ると2024年3月末で米粉クッキーの製造・販売をやめています。
米粉の輸出を少量しているが、米粉クッキーのあまり分程度だと思われる。
あまり良い例ではありませんね。

主食用米、戦略作物等の作付意向及び作付状況等について:農林水産省」によると、2025年6月時点で、新潟県の米粉用栽培は半減することはわかっていたので、本にも十分間に合ったはずだが、なぜこういう情報を使わないのかな?
以前の本ではこういうデータを使っていたはずなのだが。

第3章 減反の罪

話を震災後のコメ不足に戻す。農林水産省は2012年秋、2006年産の政府備蓄米4万トンを放出した。原料米の不足を訴える、食品加工業者からの要請に応えたものだ。6年も前の古米が米菓や焼酎などの加工品に姿を変えたことになる。
「人が古いコメを食べているのに、なぜ家畜が新米を食っているのか」
こんな怨嗟の声が、食品加工業者から聞かれた。
これもいただけないねぇ。
飼料用に栽培するのは多収で育てやすいものであるのが第一で、人の味覚に合うかどうかで作られていない。
主食用品種の米が完全になくなったら、飼料用品種の備蓄米も放出するでしょうが、そこまで逼迫はしていなった。
そんなことは重々承知していると思うのだが、何でこんな文章のまま出したのかが疑問です。

第4章 農業ムラが潰したコメ市場


第5章 空転する輸出戦略


第6章 コメ不足を招く「三高」


終 章 小泉劇場という茶番

では、大手コメ卸はなぜ反発しなかったのか。あるコメ卸は、次のように解説する。「卸は自分の製品として出すと、何か混ざっていたときに責任を取らされるのが怖い。だから、経年劣化が予想されるコメを購入したくなかったという話」
長期保管したコメは、カビが発生しやすい。小売りに備蓄米を直接売り渡す手法は、品質を担保しにくいコメを、勝手の分からない小売業界に押し付ける意味があったらしい。
「大手卸は、リスクを負わなくて済み、小売りから精白を引き受けることで利益を出せる」(先のコメ卸)
備蓄米は最長で5年保管するので、温度や湿度が管理されているとはいえ、カビが生じることが珍しくない。これまで、放出の際にはコメのカビについて、「メッシュチェック」という検査と、化学分析を行い、流通を防いできた。
メッシュチェックによる「カビ検査」は、玄米を二重に重ねた網目を通して行う。カビが生じて塊になった玄米は、網目の上に残る。これまで備蓄米を倉庫から放出する際には、この検査をしてきた。小泉米はスピード重視なので、このカビ検査を買い手である小売りに委ねている。ふつうの小売り業者がメッシュチェックの設備を持たないのは、言うまでもない。
・・・
小泉米は、ものによっては精米機の中に多量のカビの塊が溜まるので、頻繁に清掃しなければならず大変だとも聞く。
備蓄米の本来の運用はというと、〈食品用では、カビ状異物が混入していた容器包装(30kg又は1トン)ごとに全量廃棄処分しています〉(農林水産省ウェブページ「政府所有米穀(輸入米及び政府備蓄米)の販売時におけるカビ検査・カビ毒分析について」)。平時なら廃棄処分になるものが、食卓に上っているのだ
これもダメですね。
随意契約の備蓄米については「随意契約による政府備蓄米の売渡しについて:農林水産省」を見ましょう。

このページに「政府備蓄米の品質確認について」(7月1日時点で公開されているので本書出版に間に合っているはず)に次のように書かれている。
・随意契約の備蓄米はメッシュチェックによる品質確認を行ってから引渡します。
・メッシュチェック等の品質確認を買受者自らが行う場合に限り、国によるメッシュチェックを行わずに引き渡すことも可能です。
・国は、メッシュチェックによる確認手法のモニタリングとして、メッシュチェック後の米穀から、試料を採取し、分析機関でも化学分析を実施。
メッシュチェックは、買い手に完全に任されているかのように書かれていたが、実際には国で実施し、任意で事業者側の実施とすることを可能としているだけ。
しかも、国がメッシュチェックする際には化学分析も一緒にするとある。

「メッシュチェックの設備を持たない」事業者は国に任せるものだと普通は考えると思うが、いかが?

「平時なら廃棄処分になるものが、食卓に上っているのだ」などと書いているが、そのような事実はあるのか?軽く調べた限り見当たらない。
もしそれがあったら、食品衛生法違反になる。

言っていることも矛盾している。
《「大手卸は、リスクを負わなくて済み、小売りから精白を引き受けることで利益を出せる」(先のコメ卸)》
《小泉米は、ものによっては精米機の中に多量のカビの塊が溜まるので、頻繁に清掃しなければならず大変だとも聞く。》

「精米設備をもたない小売りは大手卸に精米を依頼する⇒精米の段階でカビが出る⇒そのまま出荷する」と読める。
カビが出ているのを知った上でそのまま出荷したら、精米を請け負った大手卸の責任になる。
「リスクを負わなくて済み」というが、本当にカビのあるものを精米するリスクを大手卸が受容するのだろうか?


コメ卸の精米工場は、日ごろからフル稼働に近い。だから、降って湧いたも同然の楽天の備蓄米を引き受けるところが、なかなか見つからなかったのだ。
一気に備蓄米を放出するのであれば、一時的に精米工場がパンクするのは理解できるが、赤字の部分はそういう文脈で言っていない。いかがなものか。

「日ごろからフル稼働に近い」のならば、9月10月の新米の時期の精米はどうなるのでしょうね?随意契約分の買取は5月から始まっていて6月がピーク。
そのため、比較的に精米工場が空いているだろう時期なのです。

1世帯当たり1か月間の購入数量の推移
※農林水産省の「米に関するマンスリーレポート(令和6年11月号)」より引用

7月2日に公開された「【精米能力調査】余力率50%超のライン、全国で280件 | ごはん彩々ニュース(GOHAN SAISAI NEWS)」によると、随意契約分の精米が始まっているだろう6月1日から15日で、全730ライン中、余力が50%以上なのが280件(38%)、20%以上の417件(57%)とのこと。
本当に「日ごろからフル稼働に近い」のですか?

本の最後を見ると、この本は8月に書き終えたようだ。
雑誌などに載せた記事を「本書掲載にあたり、大幅に加筆修正しています」とあるので、少なくとも7月いっぱいまでの情報は取り込めると思うのだが、とても残念な内容でした。

コメ壊滅
山口亮子
2025/9/18

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