博士が愛した論文 研究者19人が語る‟偏愛論文”アンソロジー

人気ブログランキング

博士が愛した論文 研究者19人が語る‟偏愛論文”アンソロジー」(藤井一至ほか)を読みました。

太陽系外惑星に生命を探す───須藤靖

A search for life on Earth from the Galileo spacecraft | Nature

地球以外の惑星で生命がいるだろうと判断できる指標として4つを提案しているそうだ。
・大量の酸素がある
・大量のメタンがある
 酸素があるとメタンは分解されるので、生物による再生産があるはず
・近赤外にレッドエッジと呼ばれる光合成に使われず反射される領域を観測できる
 農業などのリモートセンシング技術では、このレッドエッジを使っている
・電波を出している

「そういえば、最近ケンケンしてないな」───川上和人

Wheel running in the wild | Proceedings B | The Royal Society

籠の中で飼っているハムスター・ネズミが回し車を一心不乱に回していることを見たことがあるだろう。

外に回し車を置いたら、野生のネズミが回したというもの。
そして、幼いネズミがよく回したというもの。子供が遊ぶのと同じことなのだろうと書かれている。
基礎研究は、このように一見何の役にも立たないものがある。
川上氏は基礎研究について「金を使って音楽や小説に触れ、好奇心を満たす。そして基礎研究はその好奇心の対象となる知識そのものを生み出す仕事である」と書いている。

ネズミの件も面白いと思ったので、私もここに書いている。
その「面白い」というものを基礎研究が作り出していると。
基礎研究にはいろいろな意味があるのだろうが、この主張はしっくりくる説明ですね。
逆説的に、好奇心がない人には基礎研究の価値を理解できないと言えるのかもしれない。

衝撃と痛恨の悲話 幹細胞の可塑性とは何だったのか───仲野徹

Turning Brain into Blood: A Hematopoietic Fate Adopted by Adult Neural Stem Cells in Vivo | Science

放射線照射をして血液を作れなくしたマウスに正常なマウスの神経細胞を移植したら血液細胞に分化したという論文。
この論文の査読をした人の話です。
常識としてはありえないが、ひょっとしたら世紀の大発見かもしれないと悩んだ結果、通したという。

反響があってその後に調べられて、実際は移植した細胞と元の細胞が融合して分化しているように見えただけだった。
査読者としての悩みが垣間見られる内容でした。

見たこともない植物を探索し発見する 発生遺伝学の真髄を論文から探る───鳥居啓子

Arabidopsis thaliana mutant that develops as a light-grown plant in the absence of light: Cell

モヤシが細く伸びるのは、光があるところまで伸びてそこで葉を広げ光合成するため。
地中で目が出て途中で葉が出ても光合成できないので、種の中の栄養が残っているうちに光のある所まで出ようとする。
それを司る遺伝子の探索を研究者がするのは一般的だ。
だが、真逆のことをした論文。
暗いところで葉っぱを広げようとする遺伝子を特定したというもの。
発想がおもしろい。

博士が愛した土───藤井一至

Soil Science

論文の説明が面倒なのでChatGPTに解説してもらったものを転記します。
従来の土壌学的解析は固相(鉱物・有機物)に偏りがちで、溶液相に存在する「どの酸が反応を駆動しているか」を同定できないことがある。著者らは土壌溶液の組成を直接調べることで、プロトン(H⁺)を与える酸が風化やイオン輸送を開始し支配する過程を明らかにできる、と主張します。
当たり前のようなことのように思えるが、固相に偏りがちでこういう視点が足りなかったということのようだ。

論文とは直接関係はしないが、論文筆者のウゴリニ博士は南極の探索家でもあり、ウゴリニ・ピークという名前のついた山頂があるそうだ。
フィールドワークの延長なのかわからないが、南極まで行くとは凄いですな。

熱帯へと駆り立てられ───丸山宗利

論文の内容とは関係がないのだが、標本にはメートル原器のように「タイプ標本」「ホロタイプ」というものがあるそうだ。

スカスカ・グサグサの岩石───西本昌司

Albitization and quartz dissolution in Paleoproterozoic metagranite, central Sweden — Implications for the disposal of spent nuclear fuel in a deep geological repository - ScienceDirect

この論文の著者が西本氏の論文の査読者となり、さらに西本氏が、ある女性大学院生の論文の査読者となった、という話が載っていました。
「スカスカ・グサグサの岩石」に関係する論文繋がり。
次の章のタイトルが「論文がつないだ縁」なのだが、それがマッチする内容です。

一人では研究できないので(特に実験/フィールドワーク系)、人との縁は大事なのでしょう。
いい人と巡り会えるかどうかが一つのポイントなのでしょう。

火山に魅せられて 師の論文との出会い───鎌田浩毅

2000年には北海道の有珠山と伊豆諸島の三宅島が噴火し、全国ネットのテレビ番組で解説をすることとなった。このとき火山防災について、荒牧先生からたくさんのことを教わった。
「視聴者の理解は中学生レベルだから、難しいことをしゃべっちゃダメだよ。それから、分からないことは『分からない』と堂々と言えばいい。科学が万能じゃないことを市民に伝えるのも大事な仕事だからね」。
これらのアドバイスは今でもとても役に立っている。
赤字の部分はとても大事ですね。
知りもしないことを適当に言う自称専門家などクソくらえですね。『分からない』と言える人が信頼できる人かどうかの一つのバロメータでしょう。

わたしの愛する論文たち 老化は突然やってくる!?───小林武彦

Nonlinear dynamics of multi-omics profiles during human aging | Nature Aging

44歳と60歳にピークがあって、その後に年を取ったことを感じるそうだ。
チンパンジーは、閉経の時期がそのくらいの年齢であり、それが寿命に近い。
ヒトも本来そのタイミングで死ぬタイミングだったのではないかと書かれている。

理論物理学者、南極でニュートリノ望遠鏡を作る───石原安野

南極に深さ1kmものニュートリノ望遠鏡が作られた。
ニュートリノが水と衝突して生まれるチェレンコフ光を観測するそうだ。

博士が愛した論文 研究者19人が語る‟偏愛論文”アンソロジー
橋本幸士,高井研,片岡龍峰,須藤靖,川上和人,仲野徹,鳥居啓子,羽馬哲也,石本健太,藤井一至,丸山宗利,西本昌司,四本裕子,鎌田浩毅,小林快次,大内正己,伊藤由佳理,小林武彦,石原安野
日経ナショナル ジオグラフィック
2025/10/3

この記事へのコメント