川辺川ダムがあったら球磨川は氾濫しなかったか?

川辺川ダムがあれば、2020年7月4日の球磨川の氾濫が防げたかどうか検証してみます。
以下をもとに、計算しています。
・川辺川ダムを計画していた場所に近い場所には、四浦(ようら)水位観測所がある。
・川辺川と球磨川が合流した下流に人吉水位観測所がある。
・四浦水位観測所と人吉水位観測所の距離は約20kmある。
⇒水流は10kmと仮定すると、川辺川ダムで堰き止めた影響は2時間後に人吉観測所に現れる。
・2020/07/04 07:30(水位5.07m) の後に人吉観測所は、欠測となっているので、
四浦では、2時間前の 05:30(水位8.26m)の水位を維持できれば、川辺川が原因で氾濫することは無いと言える。
・四浦は、2020/07/04 10:20に8.26m以下(8.19m)の水位となっている。
⇒05:30~10:20で、水位8.26mをオーバーした分の水量がどの程度か計算してみます。
流量の情報が更新されていると良いのですが、2018年12月より後のデータがないので、最小二乗法で求めてみます。
直近で水量で多かったのは、2018/7/7 7時の6.95mです。

※過去の河川水位の機能を使ってこのグラフを作っています。
最小二乗法で計算すると、1550.03トン/秒で観測値の1550.03トン/秒とそれほど離れていないので、これで計算していきます。
※便宜上「m³」を「トン」と表記しています。
計算に使った水位流量曲線(HQ式)は以下となります。2018年の豊水位かつ水位上昇時のデータを使って求めています。
四浦水位観測所: 水量 = 38.32 × (水位 - 0.59)2
人吉水位観測所: 水量 = 160.79 × (水位 + 1.19)2

※途中欠測している分は、前後の水位の平均値をとります。
856万トンの貯水量が川辺川ダムにあれば良いことになります。
Wikipediaの川辺川ダムを見ると、有効貯水容量は、106,000,000トン(1億600万トン)です。
洪水調節・不特定利水目的なので、雨の前に3割程度貯めていたと思われる。
事後の計算なので、こんなに都合よいダムの調節は出来ないでしょうが、十分余裕があるでしょう。
では、視点を変えて、球磨川本流だけで氾濫したかどうか確認してみましょう。
以下は、人吉盆地周辺の水位観測所の位置図となります。

川辺川に四浦水位観測所、川辺川・球磨川が合流した下流にある人吉水位観測所、川辺川・球磨川点より上流の一武水位観測所があります。
一武水位観測所の水位は、7時30分を最後に途切れているので、7時30分~40分にどこかが氾濫して水位観測所の機能が停止したと思われます。

上流の多良木水位観測所も、7時40分に欠測となっています。その頃に氾濫したと思ったのだが、生きている観測所がありました。
熊本県球磨郡あさぎり町深田にある、深田水位観測所です。

これを見ると、はん濫危険水位に達していなさそうです。
熊本県の第2回災害対策本部会議資料を見ても、合流部より上流で大規模な氾濫が見られません。
人吉水位観測所の最後の観測が7時30分で、その時の水位は5.07mです。
最小二乗法で流量を計算すると、6300.97トン/秒となります。川辺川からの流入は2375.83トン/秒で、1/3が川辺川からの水となります。
人吉水位観測所が欠測しているので、川辺川と同じ比率でピークが来ると仮定すると、
2375.83:6300.97 = 3480.26:x
x = 6300.97 × 3480.26 ÷ 2375.83 = 9230.04トン/秒
川辺川ダムで2375.83トン/秒を維持出来たとした場合、
9230.04 - (3480.26 - 2375.83)= 8125.61トン/秒
球磨川の上流には川辺川とは異なり、ダム(市房ダム)がある。

市房ダムのピーク時に601.76トン/秒放水している。
この放水をゼロに出来たとして、
8125.61 - 601.76 = 8330.71トン/秒
人吉で氾濫が発生する閾値である6300.97トン/秒を大幅に超過した8,330.71トン/秒が見込まれるので、
このままでは、球磨川が氾濫してしまう。
8125.61 - 6300.97 = 1824.64トン/秒 ・・・これだけ川辺川からの水を追加で減らせば氾濫しないことになる。
2375.83 - 1824.64 = 551.19トン/秒 ・・・川辺川ダムからの放水量を維持すれば良いことになる。
05時30分~10時10分で川辺川からの放水量を551.19トン/秒に維持するには、
41,012,099.40トンの貯水出来る必要がある。
川辺川の有効貯水容量は、106,000,000トンなので、約4割分だ。
事前に貯水率3割程度に減らしておけば、人吉市内※7/5コメント追記の球磨川の防げるだろう。
去年の台風19号の時に「台風19号で八ッ場ダムが普通に稼働していたとして役に立ったか?」で計算してみたが、この時は理論上は役に立つという結果だったが、今回は実用でも役に立つだろう結果だった。
今回の被害額は知りませんが、費用対効果もダムを作る時の判断に加えるべきことを最後に書いておきます。
※2020/7/5追記 人吉水位観測所での氾濫が抑えられることが想定されるのであって、それより下流や上流で堤防が低い箇所では発生した可能性あり
※2020/7/9追記 人吉・四浦の水位流量曲線(HQ式)を明記。計算のベースにしたHQ式の定数に誤りがあったので修正。求められた結果に大差はなし。
川辺川ダムがあれば、川辺川起因の洪水は防げた?
以下をもとに、計算しています。
・川辺川ダムを計画していた場所に近い場所には、四浦(ようら)水位観測所がある。
・川辺川と球磨川が合流した下流に人吉水位観測所がある。
・四浦水位観測所と人吉水位観測所の距離は約20kmある。
⇒水流は10kmと仮定すると、川辺川ダムで堰き止めた影響は2時間後に人吉観測所に現れる。
・2020/07/04 07:30(水位5.07m) の後に人吉観測所は、欠測となっているので、
四浦では、2時間前の 05:30(水位8.26m)の水位を維持できれば、川辺川が原因で氾濫することは無いと言える。
・四浦は、2020/07/04 10:20に8.26m以下(8.19m)の水位となっている。
⇒05:30~10:20で、水位8.26mをオーバーした分の水量がどの程度か計算してみます。
流量の情報が更新されていると良いのですが、2018年12月より後のデータがないので、最小二乗法で求めてみます。
直近で水量で多かったのは、2018/7/7 7時の6.95mです。

※過去の河川水位の機能を使ってこのグラフを作っています。
最小二乗法で計算すると、1550.03トン/秒で観測値の1550.03トン/秒とそれほど離れていないので、これで計算していきます。
※便宜上「m³」を「トン」と表記しています。
計算に使った水位流量曲線(HQ式)は以下となります。2018年の豊水位かつ水位上昇時のデータを使って求めています。
四浦水位観測所: 水量 = 38.32 × (水位 - 0.59)2
人吉水位観測所: 水量 = 160.79 × (水位 + 1.19)2

※途中欠測している分は、前後の水位の平均値をとります。
856万トンの貯水量が川辺川ダムにあれば良いことになります。
Wikipediaの川辺川ダムを見ると、有効貯水容量は、106,000,000トン(1億600万トン)です。
洪水調節・不特定利水目的なので、雨の前に3割程度貯めていたと思われる。
事後の計算なので、こんなに都合よいダムの調節は出来ないでしょうが、十分余裕があるでしょう。
球磨川単独で氾濫したか?
では、視点を変えて、球磨川本流だけで氾濫したかどうか確認してみましょう。
以下は、人吉盆地周辺の水位観測所の位置図となります。

川辺川に四浦水位観測所、川辺川・球磨川が合流した下流にある人吉水位観測所、川辺川・球磨川点より上流の一武水位観測所があります。
一武水位観測所の水位は、7時30分を最後に途切れているので、7時30分~40分にどこかが氾濫して水位観測所の機能が停止したと思われます。

上流の多良木水位観測所も、7時40分に欠測となっています。その頃に氾濫したと思ったのだが、生きている観測所がありました。
熊本県球磨郡あさぎり町深田にある、深田水位観測所です。

これを見ると、はん濫危険水位に達していなさそうです。
熊本県の第2回災害対策本部会議資料を見ても、合流部より上流で大規模な氾濫が見られません。
人吉水位観測所の最後の観測が7時30分で、その時の水位は5.07mです。
最小二乗法で流量を計算すると、6300.97トン/秒となります。川辺川からの流入は2375.83トン/秒で、1/3が川辺川からの水となります。
人吉水位観測所が欠測しているので、川辺川と同じ比率でピークが来ると仮定すると、
2375.83:6300.97 = 3480.26:x
x = 6300.97 × 3480.26 ÷ 2375.83 = 9230.04トン/秒
川辺川ダムで2375.83トン/秒を維持出来たとした場合、
9230.04 - (3480.26 - 2375.83)= 8125.61トン/秒
球磨川の上流には川辺川とは異なり、ダム(市房ダム)がある。

市房ダムのピーク時に601.76トン/秒放水している。
この放水をゼロに出来たとして、
8125.61 - 601.76 = 8330.71トン/秒
人吉で氾濫が発生する閾値である6300.97トン/秒を大幅に超過した8,330.71トン/秒が見込まれるので、
このままでは、球磨川が氾濫してしまう。
8125.61 - 6300.97 = 1824.64トン/秒 ・・・これだけ川辺川からの水を追加で減らせば氾濫しないことになる。
2375.83 - 1824.64 = 551.19トン/秒 ・・・川辺川ダムからの放水量を維持すれば良いことになる。
05時30分~10時10分で川辺川からの放水量を551.19トン/秒に維持するには、
41,012,099.40トンの貯水出来る必要がある。
川辺川の有効貯水容量は、106,000,000トンなので、約4割分だ。
事前に貯水率3割程度に減らしておけば、人吉市内※7/5コメント追記の球磨川の防げるだろう。
去年の台風19号の時に「台風19号で八ッ場ダムが普通に稼働していたとして役に立ったか?」で計算してみたが、この時は理論上は役に立つという結果だったが、今回は実用でも役に立つだろう結果だった。
今回の被害額は知りませんが、費用対効果もダムを作る時の判断に加えるべきことを最後に書いておきます。
※2020/7/5追記 人吉水位観測所での氾濫が抑えられることが想定されるのであって、それより下流や上流で堤防が低い箇所では発生した可能性あり
※2020/7/9追記 人吉・四浦の水位流量曲線(HQ式)を明記。計算のベースにしたHQ式の定数に誤りがあったので修正。求められた結果に大差はなし。
この記事へのコメント
また、この計算は川辺川ダムから下流部分についてはダムの効果はないことが前提として考慮されていないのでは?
また、国土交通省の資料よりも洪水が発生する閾値が大きく設定されていることも問題かと。
また、この計算は川辺川ダムから下流部分についてはダムの効果はないことが前提として考慮されていないのでは?
また、国土交通省の資料よりも洪水が発生する閾値が大きく設定されていることも問題かと。
流域雨量の予測精度が問題で、それがある程度正確に出ないとそんなに貯水量は減らせない。
結果、今回もそうだったけど、ダムからも相当量の放流をするしかない。
ダムがあれば防げた、はどうかな。
費用対効果なら氾濫予想区画の住民を引っ越しさせて遊水地代わりにしてしまえばいい
人吉水位観測所でのことのみ適用できる結果であることを追記しました。
特に下流の狭隘部である球磨村でも有効かは、わかりません。
多少の効果はあったでしょう。
被災された方々は〜本当に大変だと思います。
早く復興出来るこ事を祈ります。
今から〜100年に一度の大雨は、毎年来るでしょう。
毎年、何処かの川が氾濫して被害が出てるので、今後の河川維持管理がとても重要になると思います。
今後に是非生かしてほしいです。
氾濫していませんでした。
荒瀬ダム撤去もそう
ダムがなくなり環境が良くなったって喜んで
しかしその下流に住む住民は、常に生活を脅かされる。
川辺川ダムの下流地域の球磨川近くで大雨だったんだから、
上流の川辺川ダムはまったくの役立たずです
最初の仮定として水流の速度を10km/hとしている根拠はなんでしょうか?
大変興味深いお話ありがとうございます。
私はダム賛成でも反対でも無い無関心派でしたが、今回何故過去に川辺川ダムが大きな論争になりその時代の得体の知れない自然保護派にマスコミや直接利害のない人々まで巻き込み雰囲気で工事が中断されたんだなぁと言う気がします。一番難題な用地買収移転賠償まで済んでるんでしょ?あとはコンクリートで堰き止めて電線張って発電機回せば皆幸せになる人間の方が圧倒的に多い。
もしダムが、氾濫を完全に止めれなくても何割かは人命や経済的損失も減ったかもしれない。
魚がいなくなる?綺麗な水が〜?鳥が〜?
人の命より重い〜のですかね^ ^
万が一無用の長物が判明すれば荒瀬ダムみたいに壊して元に戻せばいい。人間はなんだって出来ます。
上流にあるアメダスの五木観測所で多くの雨が降ったようなんですが
少なくとも氾濫を防ぐ可能性はダムがない今よりは高いのは明らか。
人権人権叫ぶ前に人命を第一に考える絶対法則を忘れるな
と言いたい
そして人命を守ることが政治の使命だとするなら
一人でも助かる命があるなら
ダムの一個や二個作るべきだと私は思う。
人の命ほどこの世で大切なものは無いのだから。
ただ人吉水位観測所は人吉城址公園の上流側の角にあります。
この辺(人吉城、七日町)は今回の豪雨でも浸水地域ではないので、観測所の7:30のデータを見ても意味がないと思います。(欠測時刻=氾濫時刻ではない)
このモデルで人吉の氾濫を防げるかを論じるのであれば、人吉市で最初に氾濫が確認された午前6:50あたりを基準にしてはいかがでしょう。
市房ダムのピーク時に601.76トン/秒放水している。
この放水をゼロに出来たとして、
8125.61 - 601.76 = 8330.71トン/秒
とありますが、5時間のみで貯水量の4割が必要であったとすれば、数日間断続的に広範囲で雨が続いた今回の雨では、防げなかっただろうと思えるのですが。
むしろ、その安心感が被害を増やしてしまう可能性をこそ、考えるべきかと。
さらに言えば、今回の雨以上の雨も、今後はありうるだろうと考えるべきで、そうであれば、対策の中心は、早期避難を前提としたものであるべきと思います。
こんなことを言いながら、現状までの情報からの私の主観を話してしまうんですが、私的には川辺川ダムがあっても相当レベルの洪水は発生したし、おそらく人命も失われた。ただし、被害は減少できたと思われる。(被害の減少幅は諸説アリ)
被害を大きく減少できたと主張する側の資料は下記
http://ecohyd.dpri.kyoto-u.ac.jp/content/files/DisasterSurvey/2020/report_KumaRiverFloods2020_v3.pdf
疑問に思われる点は
1.川辺川ダムで調節できる水量分、人吉周辺での水量が減るとしているが、下流域で溢れて河川に流入しなかった水が計算に入っていない。相当量の水量が溢れていたため、主張する減少効果が相当大きいと想像される。
2.降水の時間と位置、位置毎の川の水位の変化を考慮に入れていない。朝6:00~7:00頃に多くの地点で氾濫が始まっており、同時期に流域に相当の雨量があったものが各地で溢れ始めたと思われる。下流域や人吉で溢れるのに対し、まだまだ上流の川辺川ダムでこれらの水位に影響を与えるのは時間的に無理がある。
3.ダムで調節できなかった場合の緊急放流があったらどうなるかは述べられていない。市房ダムは緊急放流を行う寸前であった。川辺川ダムでそれを実施したら?(穴あきダムで、勝手に溢れたら流れ出す設計だった場合、どれぐらいの流量が一気に増加する事があり得るのか?)
あまり被害を現象できなかったと主張する側の資料は下記
https://www.nacsj.or.jp/2020/07/21000/
1.被害はあっただろうとの結論は述べられているが、ダムがあればこれぐらいは減少できたかもとの考察はない。(時間的に調節効果が発揮できなかったであろう場所で役に立たなかったという一部の結果にしか触れていない。)
中立的に調べていると思わしきもの
http://kawabegawa.jp/ogt/2020.8.23pre.fuk.pdf
このあたりの資料を見て、思考停止に陥らないようにしたいものです。
私の考えでは、ダムを造るのもアリですが、大きいダムより環境への影響の少ない(魚道整備等が容易な)小型ダムを分散して流域に作るのと、川床を掘るのと、あんまりヤバイとこには住まない(中流の狭窄部はこの川の場合対策無理っぽいです。)など組み合わせるしか・・・。